騰落率だけではわからない投信のリスク 本当に必要な投信情報とは?

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金融庁所管の金融審議会では、2012年3月に「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキンググループ」(以下WG)が設置され、複雑化する投資信託の現状と今後の課題について専門家が議論を交わしている。今回は、このWGで最も頻繁に議論されている内容の1つ、「情報提供の充実」について紹介する。

本議論では、投資信託を始めとする金融商品は専門用語が多いことから、平易な単語を使い、投資初心者にも分かりやすい情報提供に努めるべきという意見が軸になっている。基準価額の上昇率や、支払われた分配金の金額などは比較的イメージしやすい情報といえるが、例えば月次報告書にもよく記載されている「標準偏差」はどうだろうか。

標準偏差とは、投信のリターンのブレ幅を数値化した統計指標で、パーセントで表記される。リスクを表す指標としてよく用いられるが、リスクの高低をパーセントで表しても、果たしてどの程度のものか実感が沸きにくいとの批判があった。

そこでWGでは、運用が上手くいかなかった場合、最悪でいくらの損失が発生するかを「想定最大損失額」として算出し、公表するという案が出ている。昨今人気を博している高分配型投信も、実際にこの最大損失額を算出してみると、投資先の違いによって「最悪のケース」に大きなばらつきが出ると思われる。

また、投信の運用を担うファンドマネジャーに関する情報を、より詳細に開示するべき、との意見も挙がっている。かつてアクティブ運用の株式型投信が主流だった頃は、日本株などで銘柄選定に秀でた敏腕ファンドマネジャーが名を馳せた時代もあった。

しかし現在は、海外に運用拠点を構えるケースが増えたほか、人材の流動性が高まったこともあり、ファンドマネジャーの存在感は以前ほどなくなったようにも感じられる。自分の大切なお金を任せられるかどうか、運用会社によってはファンドマネジャーの情報を開示しているので、一度確認してみると良いだろう。

さらに最近は、株式だけ、債券だけといったシンプルな資産構成の投信が減る一方、複数の資産や地域に投資する投信が増えている。また、通貨選択型のように為替やデリバティブの力を借りて、高水準の分配金を捻出する新タイプも登場しており、組み入れ資産がそれぞれどの程度運用成果として反映されているかが分かりにくくなっている。

そこでWGでは、各組み入れ資産の成績を単純な騰落率だけでなく、投信に組み込んだ時の寄与度として数値化し、公表することが検討されている。

昨年は終盤こそ世界のマーケットが盛り返しを見せたが、分配金の引き下げが相次いだり、高分配投信のリスクの高さが改めて露呈したりと、詳細な情報開示が必要とされる場面が多かった。健全な投資信託の発展のためにも、継続的な議論を期待したい。

(協力:リッパー・ジャパン)

 

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