(第4回)温暖化で期待される金融の活躍~私たちがお金の流れを変える
末吉竹二郎
●金融の力が社会を変える
誰でも職業の選択には悩むものです。でも、私は迷いもなく銀行に勤めることを選びました。銀行で働けば融資を通じて、社会のさまざまなビジネスやそれを動かす人々との接点が生まれ、幅広い分野との交流が可能です。しかも、金融は経済活動に必要なお金の流れを仲介することで、社会に役立つビジネスを作り出すお手伝いができます。その期待の通り、人とビジネスをめぐる素晴らしい出会いを経験できました。さまざまな業種とかかわりお金の流れに影響を与える金融が、地球温暖化を解決するために動けば、経済や社会の姿を変えることができる。そんな思いで今、世界が動き始めました。私もその期待を胸に、活動をしているのです。
世界は多くの課題に直面しています。しかも、それらの課題は年々深刻さを増して解決の糸口すら見出せない状況です。そんな中で、地球社会は金融の力で地球規模の環境問題を解決できないのかという、熱い期待を寄せています。社会からの期待を受けて金融が対応を始めました。
その一つが2003年に世界の主要な金融機関が作った「赤道原則」です。発展途上国で行なわれる大型プロジェクト(1000万ドル以上)については、事前に環境や社会への影響を充分調査して、万一基準に達しなければどんなに「魅力ある案件」でも、融資に応じないという宣言です。今では世界から50を超える金融機関が署名しています。銀行が融資にこのような拒否宣言をすることはかつて考えられないことでした。
私が手伝っている国連環境計画・金融イニシアテイブ(UNEP・FI)は1992年リオでの地球サミットを機に始まり、金融がどうしたら環境に配慮したビジネスを展開できるのかをみんなで研究して、その成果を世界に広める役割を果たしています。そのUNEP・FIが2006年4月、「責任投資原則(PRI)」を作りました。
投資の判断プロセスにESG問題、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の評価を反映させていくという原則です。これまでのお金中心(株価が上がるから買う、下がるから売る)の投資判断から、お金以外の重要な要素であるESG問題をもっと取り込んでいこうとするものです。PRIは当時のアナン国連事務総長が提唱し、2008年3月時点で世界340の機関投資家が署名しています。それらは13兆ドルの運用資産を持っています。
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