借金2億円に負けない!村岡医師の挑戦 大震災後変わる宮城・気仙沼の医療

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ただ、人工透析の専門医が確保できていないなど、依然として診療態勢の充実が課題であるうえ、宮城県による石巻医療圏との統合の動きが新たな不安材料になっている。

県は12年11月に「第6次宮城県地域医療計画中間案」を発表。12月28日を期限に意見募集を始めているが、先立つ11月12日には菅原茂・気仙沼市長および臼井真人・気仙沼市議会議長の連名で「気仙沼医療圏の維持に関する要望」が村井嘉浩県知事宛てに提出されている。

そこでは、「三陸縦貫自動車道が気仙沼市域に達するまで早くて5年を要することから、高速交通体系を前提とした石巻医療圏との連携は現実的でない」「気仙沼医療圏では小児・周産期の入院医療を提供できる病院は気仙沼市立病院のみ。医療圏の見直しによるデメリットはきわめて大きい」との記述がある。

震災後、気仙沼医療圏でお産を取り扱う医療機関は市立病院だけになったことから、「万が一、産科医師の確保ができなくなった場合、地域で子どもを産むこともできなくなる。ひいては小児科の維持も困難になる」と気仙沼市立病院の村上事務部長は懸念している。

11月12日に開催された県の地域医療計画策定懇話会(濃沼信夫座長=東北大学大学院教授)では、出席した委員の間で「医療圏の統合はやむなし」との意見で一致した一方で、「複数の拠点病院を整備するなど、気仙沼圏域の住民が安心できるように医療計画に文言を入れるべき。(大学が)医師を配置するうえでも、拠点病院であるか否かは大きな判断材料になる」(石井正委員=東北大学病院教授)といった意見が出た。

11月の宮城県地域医療計画策定懇話会。医療圏統合の方向性を明らかにしたが課題は多い

患者宅に向かう道中、前出の村岡医師はこうつぶやいた。

「地域の医療が劇的に充実するなどという期待は持っていない。ただ、市立病院の各診療科でそれぞれ1人ずつくらい医師が増えるだけで、ずいぶんと余裕が生まれてくる。そうすれば診療所の側もやりやすくなる。そうした流れを絶やさないでほしい」

地域医療の再生には、単純な「選択と集中」ではなく、地域の実情に配慮したきめのこまかい施策が求められている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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