中国「爆買い規制」で大打撃を受けるのは誰か 政府の狙いは「国産品の品質向上」にある

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――税関では5月から5000元以上の買い物への課税を強化しています。これにより「爆買い」はダメージを受けますか。

日本国内には一般の観光客が影響を受けるという報道もあるようですが、それは間違っています。影響を受けるのは、ブランド品を転売目的で買い付けていたような業者です。税関の職員は目が肥えており、商売をしている人を荷物の様子や目つきなどで感じ取ることができる。そうした人達を選んで税逃れを摘発し始めたのです。

中国ではブランド品に対する輸入関税が高い。例えば香水を輸入した場合、消費税30%、関税10%、増値税17%がそれぞれかかります。これまでは日本で買い付けて中国で転売することが商売になったわけです。しかし、税関で見つかって関税を支払うことになれば、利益を得ることはできなくなる。ブランド品の輸入業者にとっては大きな問題でしょう。

税関が狙っているのは業者による大量買い付け

裘索(Qiu Suo)/錦天城弁護士事務所上海オフィス所属のシニアパートナー。主な業務の分野は、外国企業の直接投資、企業の吸収合併・融資、外資系企業の知的財産権保護などに関する法律サービス。復旦大学法学部法学学士学位取得(1991年)、日本早稲田大学法学修士学位取得(1997年)、華東政法大学法学博士学位取得(2005年)、米国コロンビア大学ビジネススクールで研修に参加、米国ウェストコースト大学工商博士学位取得(2009年)

――一般個人で買い物に来る観光客に関しては、それほど影響がない?

私は東京で中国の骨董品を買い付けて上海に持ち帰りました。それはものすごく高価なものです。しかし、税関に目を付けられることはありません。上海の空港は非常に混んでいるので、普通の観光客を注意するような余裕はないのです。

ただし業者は大きなダメージを受ける。今後は、日本などからの輸入品を中国で販売しているようなeコマース企業にも影響があります。多くのeコマース企業は自由貿易区にいったん持ちこみ、そこから中国国内に運ぶことにより税負担を避けてきました。ここに中国政府は目を付けた。高額のものが取引されており金額も大きい。どうしたら税金を取れるか。課税強化の議論がありましたが、企業からの反発が強く、実行を1年間延長し2017年5月11日からの施行になりました。

ただ課税強化がなかろうが、個人観光客の「爆買い」は早晩終わります。これは、そもそも一時的な現象だと思います。何度か買い物に来れば、新鮮感がなくなる。

製品の品質が上がれば、日本に来ていっぱい買う必要はない。かつて中国の人は香港に行っていっぱい買っていましたが今はそんな動きはなくなっています。しかも、ブランド志向というのは、数年前より少し低下してきたと思います。逆に、面白いものを見たいし、おいしいものを食べたい。きれいな景色を見たい、というほうにシフトしていく。

今、中国で経済力ある人は、東京、福岡、済州島などに不動産を持とうとしています。日本が繰り返し行っている規制緩和により、ビザも取りやすくなった。高所得者にとって、日本への訪問はきわめて便利になっており、しばらくは日本で不動産などを買い求める動きが続くでしょう。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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