自殺率格差を生む「新幹線仮説」と「公共事業」 経済・福祉政策で自殺は減らせる
冒頭の男性の人生が暗転したきっかけも失業だ。妻との関係も悪化し、やがて離婚。慰謝料の支払いものしかかった。
「全財産がなくなった。子どもにも会わせてもらえず、生きがいがなくなった」(男性)
いま男性は藤薮さんたちのもとで、健やかな生活を取り戻そうとしている。介護関連の資格を生かして老人保健施設での仕事を見つけ、正職員として働く。月に7日ほどの夜勤もあり、楽ではないが、
「一度死ぬことを覚悟した人間なんで、がむしゃらに働いています。とりあえず生活を再建しないと。70代の両親もいるので、いずれは実家に帰りたい」(同)
社会問題の解決に向け行政が打ち出す政策は、自殺の抑止に効果をもたらすのか。大阪大学大学院の松林哲也准教授(政治学・公衆衛生学)は、06年までの25年間に各都道府県が支出した、さまざまな経済政策と福祉政策に関する住民1人あたりの金額と、自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数、以下「自殺率」)の関係を統計学の手法で分析した。その結果、経済政策や福祉政策に費やす金額の増加と、自殺率の低下との間に相関関係が見られた。
公共事業で自殺率低下
特に公共事業への投資や失業対策費は、65歳未満の自殺率を低下させる傾向があった。公共事業の投資額が10%増えた場合、自殺率は約1.1ポイント下がると推定されるという。また失業率の増加は、特に男性の自殺率を押し上げた。離婚率が増加すると自殺率も上がり、その影響を受けやすいのは女性だった。
福祉政策に関しては、生活保護費が増えるほど、65歳以上の自殺率が低下する傾向があった。一方、65歳以上の自殺率は、公共事業投資額とは無関係だった。