自殺率格差を生む「新幹線仮説」と「公共事業」 経済・福祉政策で自殺は減らせる
切り立った岸壁の足元に黒潮がぶつかり、白い波しぶきを立てている。あと数歩先に踏み出せば、男性(46)の体はその波間に吸い込まれていただろう。「怖い」。足がすくみ、「決意」が揺らぐ。3時間ほど、その場をさまよったはずだ。4年前のその時の記憶は鮮明ではないが、確かなことが一つある。生と死の間で男性は、電話ボックスと聖書などの言葉が書かれた看板を目にした。
「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしは、あなたを愛している」「重大な決断をするまえに一度是非ご相談ください 連絡をお待ちしています」
高さ50~60メートルの屹立した断崖と青い海が美しい和歌山県白浜町の三段壁(さんだんべき)。観光地として知られるこの場所を、人生の最期の地に選ぶ人たちがいる。この男性もそうだった。しかし、「三段壁いのちの電話」の看板を見て、受話器を手にした。電話はNPO法人「白浜レスキューネットワーク」につながった。すぐさま、藤薮庸一理事長が駆けつけた。
失業、離婚、三段壁へ
こうした電話は月に約200件を数える。帰る場所のない人はその場で保護し、白浜町内にあるNPOの施設で共同生活を送りながら、自立の道を考える。
「必要ならば自己破産の手続きなどを行い、就職先も探す。過去を清算しながら、元気になってもらう。僕が活動を始めた1999年以降、約900人を保護しました」(藤薮さん)
世界保健機関(WHO)は、自殺の多くは防ぐことができる社会的な問題と位置づけている。個人の人生観や選択の結果ではなく、社会的な問題に追い込まれた結果の死という捉え方だ。警察庁によると、2015年に2万4025人に上った自殺者のうち、原因・動機の上位を占めたのは、健康問題、経済・生活問題、家庭問題だった。