米国ドルを脅かすユーロと元の可能性
4月中旬にワシントンで開催された国際通貨基金(IMF)、世界銀行の年次総会に、主要7カ国の中央銀行総裁が出席した。彼らはそこでドルに代わる国際通貨について議論が出なかったことについて、おそらく安堵したに違いない。ドルは現在、世界の基軸通貨たる地位を改めて問われている。仮にドルに代わってユーロが国際通貨として十分に機能すれば、ユーロ相場は1ユーロ=1ドル65セント~1ドル70セントの水準にはとどまらず、2ドル近くにまで上昇するはずだ。
ドルの実効相場は、米国が過去6年間に空前の貿易赤字を計上し続けたために、4分の1以上も下落している。さらに景気の低迷、金融情勢の悪化、インフレ懸念などから長期的な下落傾向が続いている。
FRB(米連邦準備制度理事会)は、業績低迷にあえぐ米国の金融機関を必死に救済しようとしている。しかし、いくらFRBが努力しようと、銀行が新規資本を大量に導入しないかぎり、その効果には限界がある。政府系ファンドには米国系銀行を救済できるだけの資金があるが、現時点で大量の資金を投入することはなさそうだ。
米国系銀行の信用収縮や住宅価格の下落がこのまま続いたら、住宅の不良債権を救済するために、これまで以上の資金が必要となる。そうなれば米国政府は、納税者に1兆ドル以上の負担を強いるかもしれない。またドル資産の低利回りが今後も続けば、世界中の投資家が1兆ドルもの米国債を引き受けることについて慎重になる可能性が高い。
米国債は現在まだ投げ売りされているようには見えない。しかし米国では、国内経済が景気後退に向かう中、来年には多くの企業が倒産すると言われている。最近出版された『3兆ドルの戦争』(ビルメス元国務次官補&スティグリッツ・コロンビア大学教授共著)によれば、米国はイラク戦争によって数兆ドルの費用を負担する可能性もあるという。
さらに米国の州政府と地方自治体の財務内容も問題だ。地方自治体は住宅価格下落と所得減によって歳入が激減しており、財務内容は厳しい。多くの地方自治体が1970年代に管財人の管理下に置かれたニューヨーク市と同様の状況に陥る危険があるのだ(ただ米国では、現時点ではまだ地方自治体の巨額の債務不履行は発生していない)。
近い将来、ユーロがドルに取って代わる日が来る
こうした状況下でドルも世界の機軸通貨として必ずしも盤石ではない。ではドル以外に基軸通貨たりうる通貨はあるか--。中国人民元は21世紀後半にドルに取って代わる国際通貨となる可能性がある。しかし中国政府による資本管理と金融規制は厳しく、現状の規制が続くようなら、人民元が今後、世界経済の「錨」の役割を果たせるかは疑問である。