米国ドルを脅かすユーロと元の可能性


 ではユーロはどうか。ユーロはドルが基軸通貨の地位から脱落した場合、その役割を担える唯一の通貨だといえるだろう。しかし、ユーロもまた複数の問題を抱えている。

欧州各国の規制当局は、国際金融市場で支配権を獲得しようと足並みがそろっておらず、欧州の各銀行も分裂したままだ。また欧州の政府債はすべてユーロ建てで発行することができるが、ドイツ政府とイタリア政府の国債は必ずしもユーロ建てで発行されてはいない。ユーロ建て国債市場は米国の証券市場と比べ、流動性の高さが十分であるとは言えないのだ。

現在、欧州より米国のほうが不動産売買がしやすいというのは、国際的な投資家の間では常識だ。また欧州は各国が個別の財政政策を行っており、仮に銀行のジャンク債で巨額の損失が発生した際、どのように中央銀行が資金調達するかについての見通しも十分に立たない。

だが近年、ユーロの実力が上昇していることだけは事実である。今の為替相場で換算すると、EUの経済規模はすでに米国を上回っており、さらに新規加入した中欧、東欧諸国も、欧州に大きな経済効果を持ち込んでいる。

欧州の各中央銀行も世界的な金融危機を巧みに処理し、国際的な信頼を勝ちえている。将来的に仮にイギリスが正式に加盟することになれば、世界第2位のロンドン市場も獲得できる。そうなると本格的にユーロがドルに取って代わる可能性も見えてくるだろう。

ドルの崩壊によって固定為替相場制が終焉した71年、コナリー米財務長官は各国の財務大臣に「ドルは米国の通貨であり、皆さんが心配する問題ではない」と語った。そうした姿勢は、米国政府が為替相場を無視したり濫用するような事態につながったが、それでもドルの圧倒的地位は今日に至るまで続いてきた。

世界の基軸通貨にはサイクルがある。イギリスのポンドは2度の世界大戦と産業の衰退を経て、50年以上経ってからその役割をドルに奪われた。今後の地位交代はさらに迅速に行われるかもしれない。

各国の中央銀行総裁と財務大臣は、ドルを支えるためにどのような介入をすべきかについて現在、考えを巡らせているはずだ。同時にドルの生命維持装置が限界を迎えたときの対処法についても、彼らは考えるべき時期に来ている。

ケネス・ロゴフ●1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

(週刊東洋経済)

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