これまで電子出版を追いかけてきた記者、ITジャーナリスト、識者たちは、よく英米圏を引き合いに出して日本の電子出版市場を語る。そこには、日本もやがて、英米と同じように電子出版が日常化するという前提がある。
特にキンドルの登場でセルフパブリッシング(電子自費出版)が活気づき、KDPからは、すでに何人ものベストセラー作家が誕生したことを、電子出版の未来が明るいこととして語る。
確かに、日本でもすでに『Gene Mapper』(藤井太洋・著)が成功例として語られるようになっている。今後、自主出版のなかからヒット作品が生まれれば、キンドルは成功するだろう。
しかし、その決め手はエロの審査だ。
英米圏でもポルノが売れ筋
今年の英米圏の電子出版を牽引した空前のベストセラー『フィフティ・シェイド・オブ・グレイ』シリーズはポルノである。実際、アメリカでは“マミーズポルノ”と言われた。主人公アナスタシアが大富豪グレイに調教されてSMに目覚めていく過程に、「トワイライト」読者の女性層が飛びついた。
おそらく、これからの電子出版を牽引していくのは、こうした自身でダイレクト出版を目指す素人作家たちであるのは間違いない。なぜなら、こうしたポルノをいきなり紙で出すのは無理だからだ。実際、これまでKDPでよく売れた作品は、紙では難色とされるポルノ要素の多い作品が多い。
となると、電子出版が進展して、将来が明るいのは、「日本は電子書籍の墓場」と言う私に反論を寄せてくれた優秀な記者の方々やITジャーナリストの方々ではない。電子出版の進展、アマゾンの明るい未来などを予測すればするほど、この方々は自分たちの首を絞めるだろう。
また、出版社も編集者も、私のような書き手にも、あまり明るい未来はやってこない。明るいのは、何もしなくても料率で利益を得られるアマゾンなどのプラットフォーム側だけである。
最後に、日本でキンドルが売れようと売れまいと、キンドルストアが普及しようとしまいと、アマゾンとしては全世界市場の中の一部にすぎない。電子出版、電子書籍の世界の本当のビジネスは、世界標準語の英語の中で行われる。だから、キンドルストアの日本語本のタイトル数、その言語環境などをいくら論じたところで、あまり意味はない。
日本語で書かれた本の需要は、しょせん日本国内だけのものだからだ。アマゾンにとって、日本語圏は日本の現地スタッフが地道な努力で整えていくだけのマーケットにすぎない。
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