パナが今さらテレビ液晶から「撤退」する事情 6期連続の赤字事業に買い手はつかなかった

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津賀一宏社長は残る不採算事業の整理でどんな選択をするか(写真は4月28日の決算説明会。撮影:大澤 誠)

今回停止となるパナソニック・姫路工場のテレビ用液晶の生産ラインは、液晶工場としては日本で2番目に大きい。日本最大なのは、シャープと鴻海精密工業のテリー・ゴウ氏が共同出資する、堺ディスプレイプロダクトの液晶ラインだ。

液晶パネルは1枚の大きなガラス基板から、完成品のサイズに切り分けて製造するため、大きければ大きいほど一度に多くの液晶パネルが製造でき、生産効率が高い。

ただ、韓国サムスン電子のように自社の最終製品に搭載できる場合や、中国メーカーのように政府援助が厚く採算度外視で事業ができる場合を除き、大型ラインは販売が伸びなければ、在庫をその分多く抱えることになる。稼働率を下げれば、ただでさえ低い採算性が悪化し、投資回収が難しくなる構造となっている。

かつて“世界の亀山“で一世を風靡したシャープ・亀山第二工場は、パナソニック・姫路工場よりもやや小さい規模で、テレビ向け販売が伸びず、現在はスマホやタブレット向け中心に操業。それでも在庫が積み上がり、稼働率は低く、足元の経営不振に繋がっている。

次の撤退は二次電池か太陽光か?

当初パナソニックは液晶事業そのものの売却も検討していたものとみられるが、こうした背景もあり、「相当ディスカウントしても買い手が付かなかったのではないか」(液晶メーカー社員)との見方もある。

国内で可能性があるとすれば、スマホ向け液晶パネルを製造する、シャープとジャパンディスプレイ(JDI)の2社。しかし、シャープは自社工場の稼働率がただでさえ低いうえ、鴻海グループ内の液晶メーカーと連携を進めるものとみられ、社外の製造ラインを買収する可能性は低い。

一方、JDIはシャープとの事業統合を模索していた段階では、パナソニックの姫路工場を活用する案も検討していた。が、シャープとの統合は立ち消えになり、単独路線を歩むことになった。今期は新工場稼働を控え、製造ラインを一部廃止するなど生産体制の再編を進めていることから、これから新たに買収するとは考えにくい。

買い手が付かず、事業を終息させるしかないパナソニック。もっとも、事業売却こそ難しいものの、今回停止する生産ラインの減価償却は完了しているため、減損損失は見込んでいない。今期は車載事業や住宅事業への先行投資がかさみ減益予想だが、来期以降の成長に備え、不採算事業を今期中に整理したい思惑がみえる。ノートパソコン向け2次電池や太陽光発電システムといった、残る不採算事業についても、今期中に何らかの方針が示される可能性もある。2012年の津賀一宏社長の就任以来、パナソニックが進めてきた構造改革は、いよいよ最終段階を迎えている。

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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