ブラック保育園が跋扈してしまう2つの要因 制度の限界や現場のひずみを理解しているか

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保育施設の質は、どのような保育を実践しているのかという保育内容よりも、どのような人たちがやっているのかで決まるというのが私の実感です。「何をやるか」よりも「誰がやるか」なのです。とりわけ、「誰が」の中でも施設長が及ぼす影響は絶大です。施設長によって保育士の定着率も変わりますし、保育士同士のコミュニケーションも変わります。現場の園児よりも施設長のほうに気を使わなければならないような保育現場で死亡事故が起きた事例もあります。

施設長が及ぼす影響は絶大だ

2014年7月に京都の認可保育施設で起きたプールでの死亡事故を受けて、同年10月に行われた京都市の特別監査では、保育・運営体制の問題点として、園運営において児童より自分への対応を優先する園長の姿勢という項目で指摘されています。

報告書によると「職員への聴き取り調査により、職員が園長個人への対応のため、保育士が十分に保育に携わることができない状態が生じていたことが判明した。具体的には、職員は毎朝出勤すると一人ひとり順番に1階の応接室に入り、床に正座するなどして園長にあいさつをするが、その日の園長の気分や相手によっては一人30分以上話し込むこともあり、その間ほかの職員が応接室の前で、自分の番を待つ状態が生じていた」と記載があります。

このように、施設長ひとりが施設全体の風土に悪影響を及ぼし、その風土によって引き起こされる重大事故も存在するのです。私の経験上、重大事故の原因として施設長や特定人物が影響していることが少なくありません。施設長に資格制度や養成制度を設けてもいいのではないでしょうか。

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現行の制度では、保育現場に大きな改善を起こすことは難しいと思います。私は営業マンの経験がありますが、「良い営業マンは、良いお客様が作る」と言われていました。保育施設も「良い保育施設は、良い保護者が作る」といえます。

良い保育現場を作るためには、保育施設と一緒になって改善していける保護者をひとりでも多く育成することが大切です。苦情や要望よりも、建設的な意見を暖かく施設に届けて、保育施設と前向きに歩んでくれる違いのわかる保護者が保育現場を変えてくれることを期待しています。そのためには、まず、園児を預ける保護者が保育制度や保育現場の現状を少しでも理解することです。

脇 貴志 アイギス社長

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わき たかし / Takashi Waki

株式会社アイギス代表取締役社長

2003年から保育園を中心に社会福祉法人・学校法人に対して事故やトラブルの対応アドバイザーサービスを展開。保育園に特化した現場、現実を重視した具体的内容の事故防止セミナーで年150回以上講師を務める。
 

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