現地ルポ!北朝鮮「経済5カ年戦略」の現場 「自主」「主体」謳う独自路線の成否は?

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北朝鮮には「主体(チュチェ)鉄」という鉄がある。豊富な鉄鉱石資源を基に、コークスを使わない製鉄法で生産される鉄のことだ。北朝鮮にとってコークスは輸入に頼らざるを得ず、そのためコークスを使わない製鉄方式を模索した歴史がある。

金策工業総合大学主体鉄研究所の崔林虎(チェ・リムホ)室長

この製造方法などを研究する金策工業総合大学主体鉄研究所の崔林虎(チェ・リムホ)室長(43)は、「主体鉄をはじめ鋼鉄は経済強国建設において革新的な役割を担う」と前置きした後、「主体鉄の生産自体は完成されたが、いまだ解決すべき科学技術的問題が残っている」と打ち明ける。主体鉄研究室が5カ年戦略中に掲げる目標は、「主体鉄生産システムをより完成度を高め、主体鉄を100%利用した鋼鉄生産体系を確立して、金属工業の主体化を完成させること」(崔室長)。

「自彊力だけが生き残る道」

韓国の北朝鮮専門家である鄭昌鉉(チョン・チャンヒョン)氏は、5カ年戦略の基本的方向性は3つあると指摘する。

まず、人民経済の自立・主体性を強化すべき、ということ。次に、内閣が経済運営に責任を持ち、「われわれ(北朝鮮)式の経済管理方法」を確立する、ということ。そして、科学技術大国になるべく経済建設を行うべき、というものだ。そういう方針が決まっていれば、現場ではその方向性にしたがって努力せざるを得ない。そのため、自力や自彊、主体といった言葉が現場でも聞こえてくるのだろう。

労働党大会の総括報告で、金党委員長はこれまでの経済成果を誇示しながらも、「ある経済部門は情けないほど劣っており、人民経済部門間のバランスが適切に確保されずに、国の経済発展に支障を来している」と率直に語った。それは、総括報告で何回も登場した「電力不足」という、経済活動の基本的なインフラさえ十分に保障されていないという現状を指摘したものだ。

「自主・自彊」という方針が現場で十分に反映されつつ、経済成長は達成できるのか。経済制裁で対外経済活動がきびしい中、資本や資材をどう確保するのか。また、資本主義・市場経済の国に囲まれ、社会主義経済を強く標榜する北朝鮮はどう折り合いを付けるのか。5カ年戦略の具体的な目標は明らかにされていないが、目標を達成したと言えるレベルになるためには、このような問題が横たわっているのが北朝鮮経済の実状でもある。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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