過去最高の就活「売り手市場」は来年も続く? 業績悪化でも企業が採用を絞らないワケ

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しかし足元では、中国の景気減速懸念に加えてスマホ市場の鈍化、円高の進行など、逆風も吹きはじめている。自動車や電子部品、精密機械メーカーなどは、今期の業績予想を2ケタ減益とする企業も多い。

トヨタ自動車は円高の影響で大幅減益を見込んでいる。写真は豊田章男社長(撮影:尾形文繁)

このため、「業績が悪化すれば、コスト削減の一環として採用を抑制する動きが出るのではないか」と、就職環境の悪化を懸念する声も聞こえてくる。実際、多くの企業がリーマンショック後に一気に採用を抑制したことは記憶に新しい。

ただ、現時点では、今年の採用について大きな影響はないという見方が有力だ。採用は選考活動の段階に入っており、大幅に計画を見直すことは考えにくい。さらに、「前年の採用では予定通りの人数を確保できず、採用者数を確保したいと考える企業は多い」(栗田卓也・マイナビHRリサーチ部長)ようだ。

来年の就活戦線も異常なし、か?

それでは、来年(2018年卒生)の採用はどうなるのか。すでに来年の卒業生を対象とした夏のインターンシップが始まろうとしているが、「インターンシップを募集する企業側の動きはいい」(栗田氏)などと、採用への影響は少ないとみられる。

栗田氏は「小売業や建設業をはじめ、構造的に人手不足の業界や企業は多く、今後も高い採用意欲は継続する」と予想する。企業の現場から採用を求める声は強く、採用費を抑制する動きもみられないという。

要因としては、人口が多い1950年前後生まれの団塊世代が65歳を超え、一気に退職を迎えたことも挙げられる。また、以前にリストラを実施し採用を絞ったことで、世代間のバランスが崩れ、幹部候補生や管理職候補が少ない、といった問題に直面する企業もある。そうした反省から、大手を中心に、各社は安定的な採用数の確保を目指しているのだ。

景気悪化が深刻化した場合、出店や海外展開を一時的に凍結し、その影響で採用の増加も多少ペースダウンする可能性はある。また、家電メーカー各社のように、構造改革を迫られる状況では採用どころではないだろう。しかし、多くの企業は中長期的な成長戦略を掲げ、そのために人材を安定して確保しようと考えている。来年の採用環境について、現時点で過度に懸念する必要はなさそうだ。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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