オバマ大統領の広島訪問で「核廃絶」は動くか 核軍縮の専門家・鈴木達治郎長崎大教授に聞く

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オバマ米大統領の広島訪問は、「核軍縮に逆行する動きに歯止めをかけるうえでも重要」と指摘する鈴木達治郎氏。2014年3月まで原子力委員会委員長代理を務めた後、現在は長崎大学核兵器廃絶センター長(同大教授)として核軍縮の推進や核燃料サイクル政策の見直しなどで積極的に発言を続けている

――オバマ大統領がチェコの首都プラハで「核兵器のない世界」をめざすと表明してから7年が過ぎました。この間に核軍縮はどれだけ進んだのでしょうか。

当初は新戦略兵器削減条約(新START)の調印、2010年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の合意成立などかなりの成功を収めた。

しかし、オバマ政権2期目の前後からウクライナ問題の顕在化や北朝鮮の核実験などを発端に、核軍縮が進まなくなってきた。

これには米国の責任も重い。核兵器近代化計画という30年にわたって総額110兆円(1兆ドル)以上も費やす戦略を打ち出し、核軍縮と逆行する方向に進んでいったからだ。

核弾頭の数は減らしていきつつも、より精度が高い高性能の核兵器に更新して核抑止力を維持するというのが「近代化計画」の狙いだ。小型でも確実に標的を破壊できる核兵器の開発計画は、「より使いやすい核兵器」を生み出す恐れがある。さらに、ロシアや中国の反発を招き、両国が軍拡に走り出すという逆効果につながっている。この近代化計画はオバマ政権の最大の汚点とも言える。

核軍縮後退に危機感

――核弾頭の削減にも悪影響が出ていると指摘されています。

私が責任者を務める長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)では、各国の核弾頭の数を毎年発表している。ここでは、昨年あたりからガクンと削減ペースが落ちていることがわかる。近代化計画でより威力のある核兵器にリプレースされることにより、むしろ核の脅威は増している。今後30年がかりの近代化計画が終了すると、今後50年以上核廃絶は実現しない。そうした流れを止めるうえでも広島訪問で成果を残してほしい。

もっとも、オバマ氏はまもなく大統領を退くことになるため、戦略見直しの役割は次の大統領に引き継がれる。ただし、オバマ氏が広島に行き、核兵器使用の悲惨さを実感するとともに次期大統領へのメッセージの中に核軍縮の方針を入れることで、次の政権に影響を与えることができるのではないか。ウクライナへの核兵器使用をほのめかしたロシアのプーチン大統領を自制させるためにも、広島訪問の経験は有効だ。

――オバマ大統領訪問に対する被爆者の期待はどうでしょうか。被爆者の高齢化が進んでおり、直接体験を聞くことができる機会は急速に減っています。

被爆から70年が経過し、核軍縮が実現しないまま生涯を終えることを懸念している被爆者は多い。それだけに今回の訪問はまさにぎりぎりのタイミングだ。しかしながら、核廃絶に向けて明確な声明を出すことができなかった場合には期待は失望に変わる。期待に応えなければならない一方で、オバマ大統領は米国国内の意見にも耳を傾けなければならない立場にある。

これらのバランスを取ることは難しく、スピーチは短い内容になるかもしれない。それでも慰霊碑に献花し、原爆ドームをバックに声明を発することの意味は大きい。その際に私が懸念しているのは、日米同盟の強化などのコメントが含まれないかということだ。そうなると核廃絶のために広島を訪問していることが台なしになり、中国やロシアの批判を浴びる可能性が高い。核廃絶のモメンタムが消えてしまうことにもなりかねない。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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