「独自の軍隊を持たない国連が発揮すべき力」ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

かつてソ連のスターリンは、国力をそのまま軍事力に置き換え、「ローマ法王はどれだけの軍隊を持っているのか」と述べ、“ソフトパワー”の有効性を一笑に付したことがあった。今でも多くの自称「現実主義者」たちが、同様の観点から、独自の軍隊を持たない国際連合について無力な存在だととらえている。だが、そうした考え方は正確とはいえない。

 パワーとは、人々が望む結果を生み出すために、他者に影響を及ぼすための能力を意味する。すなわちハードパワーとは、“アメとムチ”によって効力を発揮するもので、ソフトパワーとは、自身の魅力と協調によって効果を発揮するものである。

 国連は己の軍隊を持たず、財政規模も小さい。したがって加盟国から派遣を受ける以外にハードパワーを発揮することはできない。

 もちろん国連は、安保理の常任理事国を中心として、各国の安全を保障する体制を築いている。国連は常任理事国によって可決されれば、朝鮮戦争や第1次湾岸戦争で示したような大きな力を発揮できるのだ。しかし現実的には、常任理事国の拒否権は、配電盤のヒューズのような役割を果たしている。すなわちヒューズが、漏電による火事を防ぐためにあえて停電にさせるように、国連も国際紛争の複雑化を避けるため、拒否権によって、あえて軍事的発動を制御する場面が存在するのだ。

 しかし別の見方をすれば、国連は国家の行動、特に武力行使を正当化する権限を与えられているため、大きな“ソフトパワー”を持った存在ともいえる。人々はワード(言葉)だけで生きることができないのと同様、スワード(刀)だけでも存在できない。実際に国連は、2003年のイラク侵攻を阻止こそできなかったものの、アメリカとイギリスに承認を与えなかったために、両国は膨大な軍事的費用を負担することとなった。

 当時、アメリカの指導者たちは国連を廃止し、国連に代わる国家間同盟を構築すべきだと主張した。しかし彼らの主張は実現しなかった。イラク政策によってアメリカは同盟国の信頼を損ねたが、国連は重要な組織として、世界の多くの国から信頼を得たのである。

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