熊本地震で新幹線の脱線を防げなかったワケ JR各社で異なる地震発生時の脱線防止対策

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ちなみに、今回の脱線箇所だが、ここには「脱線防止ガード」は設置されていなかった。熊本駅を南下して2キロも走っていない地点であり、また鹿児島本線の線形に沿った急なS字カーブもあるために、制限速度が低い箇所であった。仮に大きな震度に襲われても大きな逸脱はないという判断で、設置の優先順位が劣後していたと思われる。また山陽新幹線タイプの「逸脱防止ガード」も当然設置されていない。

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JR九州の800系新幹線。逸脱防止ストッパは全編成には取り付けられていない(写真:K3 / PIXTA)

加えて、JR九州の車両のため「L型ガイド」はついていない。また、JR九州保有車両の中で「N700系」には全て「逸脱防止ストッパ」がついているが、事故を起こした800系にはついていなかった。ということは、この脱線箇所を通過した際の800系には、主な脱線対策は「西」のタイプも、「東」のタイプも機能していなかったということになる。

事故の詳細はやがて発表となる報告書を待たねばならないが、脱線停止した先頭車両の写真を見ると、車体幅の半分近い逸脱を起こしている。ということは、車体中央に「逸脱防止ストッパ」が設置されていて、レールが引っかかって戻れば、もう少し逸脱幅が少なくて済んだかもしれない。今回の脱線では一部の車両はヨコ方向の想定限界を越えて逸脱しているようにも見える。

もし対向列車が来ていたら・・・

仮に反対方向の列車とのすれ違い時の脱線であれば、相互に干渉が起きていたかもしれない。もちろん線形を考えると、反対方向の列車も減速している区間だから、大惨事になる可能性は極めて低いが、絶対に避けなくてはならない事態であることは間違いない。

そう考えると、今回の脱線事故は、東と西でそれぞれに進化を遂げてきた脱線防止対策の「空白地帯」で起きた事故といえるだろう。こうした「空白」の区間は、JR九州の場合はまだ相当に残っている。今回の事故を契機に「空白」を埋めることが急がれる。

車両側の対策としては、800系も含めた全編成に「逸脱防止ストッパ」の設置がされるべきだ。800系については全9編成中の2編成しか設置がされていないが、残りの編成に関して改造が急がれる。また、線路側の対策としては、全区間に「脱線防止ガード」の設置が難しいのであれば、山陽方式の「逸脱防止ガード」の採用も視野に入れてはどうだろうか。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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