三越伊勢丹、「爆買」訪日客単価3割減で急失速 宝飾品や時計など高額品売り場の客数まばら

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それでも、同社は2019年3月期の百貨店業の営業利益を2016年3月期比130億円増の350億円とする経営計画を掲げる。はたして達成できる公算はあるのか。

大西社長は、「何の施策も打たなければ、来店客数は減っていく。前年をキープしながらどう利益を出してくのか、真剣に考えていかなくてはいかない」と語り、トップラインの増加を期待できないなかで、質的成長に舵を切ることを宣言した。

戦略の1つが、同社独自のSPA(製造小売)商品を展開していくことだ。グループ内に限らず、いずれは他社の百貨店などでの展開も狙う。まずは、中間層をターゲットとした1万円台の婦人靴ブランドから着手し、3年後には複数ブランド併せて100億円程度の規模まで育成していく予定だ。

量より質を追い、自社ブランドで戦うことを宣言

さらに、苦戦の地方郊外店では、徹底的なテコ入れをはじめる。不振の国内ブランド衣料品の構成比を減らし、採算の低下をカバーするために、店舗面積の7割を、取引先任せではない自主編集売り場にする。スーパーやカフェ、SPA商品などを展開していく予定だ。とはいえ、一定の基準を満たせない店舗を閉店させる可能性については否定しなかった。

また、訪日客消費の獲得もあきらめたわけではない。同社は今2017年3月期の計画で前期並みの免税売り上げを見込む。苦戦する三越銀座の空港型免税店で商品構成を変えていくほか、なるべく早期に、新宿など数店に同様の免税店を作っていくという。さらに、日本に来なくとも中国現地で買い物ができる仕組みを作る。今期中には日本からの輸出品をアリババの「天猫国際」など中国のEC(電子商取引)サイトで売る、「越境EC」にも参入するという。

量より質を追い、あくまで三越伊勢丹の百貨店ブランドで戦うことを宣言した同社の姿勢は、家具量販店やファストファッションブランドなどをテナントで入れ、集客力と安定収入を狙う同業他社とは袂を分かつ。だが、百貨店から離れている中間層の取り込み策として、「三越・伊勢丹印」の訴求効果がどの程度あるのかは不透明だ。今期の百貨店事業の目標である、前期比17%増の営業利益を達成するためのハードルは、限りなく高い。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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