「街頭名刺交換→営業電話攻勢」は合法なのか 個人と事業者、両方に責任が発生する場合も

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「個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段によって、個人情報を取得することを禁止されています(個人情報保護法17条)。

この規定に違反した場合、事業者を管轄する大臣、つまり、不動産の場合は国土交通大臣が、その行為を中止させる勧告や命令をすることができます。事業者が従わない場合には、刑事罰もあります」

では、個人情報取扱事業者でなかった場合は、どうだろうか。

「人を欺いて名刺を渡させる行為は、そもそも詐欺にあたります。民事上、相手に名刺を渡させた行為者には不法行為責任、指示をした業者にはその使用者責任が発生します。

また、刑事上でも行為者には詐欺罪、業者または上司には、詐欺にあたるような行為をするよう指示したとして、教唆が成立する可能性があります。ただし、名刺そのものは財産的価値が必ずしも高くないため、実際にこれらの責任を追及することは難しいかもしれません」

「イヤな上司の名刺を渡す」は、問題ナシ?

では、どうすればいいのか。

「このような場合、あとから営業電話がかかってきても、引っ掛からないように注意するほかありません。もちろん、営業電話が強引だったり、詐欺的だったりした場合は、そのこと自体によって、契約の取消しや業者に対する制裁もありえます。

なお、ヒロミさんは投資用マンションの営業をしていたということですが、宅地建物取引業者の場合は、個人情報取扱事業者であるか否かを問わず、業務に関して法令違反があり、宅地建物取引業者として不適当として判断されるときは、業務停止や免許取消しとなる可能性があります」

ネット上には、迷惑な営業電話を避けたいがために、自分の名刺の代わりに「嫌な上司や嫌な同僚や嫌な取引先の名刺渡す」という声もあった。勝手に第三者に他人の名刺を渡すことに法的な問題はないのか。

「他人の名刺を渡したその人自身が個人情報取扱事業者にあたることは稀でしょうから、個人情報保護法による罰則の適用は基本的にはないでしょう。他人の個人情報を提供したからといって直ちに犯罪が成立するものではなく、名誉棄損につながる場合に刑事罰の適用があるくらいです。

もっとも、犯罪にあたらないからといって自由にやってよいわけではありません。上司や同僚に対して民事上の損害賠償責任を負う可能性はありますし、就業規則などの社内規定によっては懲戒の対象となるかもしれません。法律以前のマナーとしても許される行為ではないので、他人の名刺を勝手に渡すくらいであれば、頑として渡さない姿勢を貫いてほしいと思います」

 一藤 剛志(いちふじ・つよし)弁護士
第二東京弁護士会多摩支部 副支部長、公益社団法人立川法人会 監事
事務所名:弁護士法人TNLAW支所立川ニアレスト法律事務所

 

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