日本経済は円高で再び「耐える期間」に入った 世界を見ればドル安にするメリットが大きい

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しかし、それらの負担を引き受ける国が必要になる。無論、そのひとつが日本になることは言うまでもない。2012年まで「円高」で疲弊してきた日本経済は、米国が「円安」を許容することで復活し、さらに「黒田バズーカ」という人為的な操作により、株高を演出することができた。日本企業も円安のおかげで、過去最高益を更新するほどの収益を上げてきた。しかし、これらの企業が、安倍政権がもくろむ賃金の引き上げに消極的だったことで、結果的にデフレ克服に失敗した。

つまり、安倍政権が推進した政策が上手く機能しないまま、今度は日本が負担しなければならない時期に突入したのである。グローバルに見れば、再び日本経済が「耐える期間」に入ったことだけは確かである。このように考えると、円安に頼るだけの経営では、もはや生き残れないということになる。黒田日銀の金融政策による円安・株高はもはや期待できない。つまり、金融政策に頼る経営戦略はもはや取れないということになる。そうなれば、政府に頼るしかないが、財政出動の可能性についても、やや疑念が残る状況になりつつあることは懸念材料である。

G7で財政出動の合意を得るのは難しい

安倍首相は日本の長期休暇を利用して、今月末のサミットの根回しのために欧州各国を訪問している。サミットでは世界経済が主要テーマになるが、安倍政権は財政出動を行う際に、主要各国にも財政出動を促したいと考えている。しかし、経済が安定し、財政面も問題がないドイツの同意を得ることは極めて困難な状況にある。そもそもドイツは、財政拡大が景気向上につながるとは認識していないようである。また財政出動で目先の成長率を引き上げても、その負担は最終的には増税の形で国民に跳ね返ると考えられている。

先のG20では、「金融・財政・構造改革などすべての手段を用いる」ことで合意したが、具体策が打ち出されたわけではない。G7で財政出動に関する合意が得られなければ、安倍政権はいよいよ苦しくなるだろう。熊本の震災の影響もあり、衆参ダブル選挙は見送られた。消費増税についても、これまでの政権運営の失敗を認めることになるため、これ以上の先送りができない状況に追い込まれている。

「アベノミクスの終焉」が近づく中、日本株の動きに注目すれば、大きな期待はできないとの結論になるだろう。ヘッジファンドなどの仕掛けがなくても、「自然体で」ドル円は下落基調をたどることになり、日本株は円高に圧迫されるという、従来の見方が現実のものになるだろう。

世界的にみても、米国の利上げのタイミング、英国のEU離脱問題、中国経済の動向など、不透明要素を挙げればきりがない。リスク回避通貨である円が買われやすい状況が続くことを大前提に、今後の投資戦略を構築することが肝要である。日本の輸出企業も円高から逃げるのではなく、円高を前提とした経営方針の確立が不可欠であることはいうまでもない。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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