日銀には「期待も失望もしない」ことが賢明だ 今回何もしなかったのは誤った判断ではない

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日銀に悪い点があったとすれば、黒田総裁が、金融政策の心理的な効果に頼りすぎて、市場参加者や専門家、マスコミの誤解による喜びの踊りを、そのまま放置した点だろう。その危うさは、筆者は2014年に当コラム(2014年11月16日付「黒田総裁は、「松岡修造効果」を狙っていた?)で述べていた。あるいは、日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の、「「よい誤解はよい」という誤解」(2015年10月21日付)を参照されたい。

もともと大したことができない日銀が、どうせ何をやっても市場は失望するので、今回の金融政策決定会合で何もしなかった、というのは、判断として誤っていなかったと思う。今回大いに騒いだ専門家や市場参加者は、今後は日銀の金融政策に対し、期待も失望もしないほうが賢明だろう。とはいえ、騒がないと仕事にならない向きは、今後も懲りずに騒ぐのだろうが。

当面の相場は「二番目に暗いところ」を通過へ

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さて、当面の国内株式市況だが、連休の狭間は短期的にさらに一段の円高が仕掛けられ、株価も下振れする恐れが高い。加えて、近著「勝率9割の投資セオリーは存在するか」で分析しているように、週次の米ドル円相場の年内変動をとり、それを1973年から2015年まで平均すると、季節的には14週目(4月)まで円安が進み、そこから19週目(5月)まで円高に振れる傾向が強いことがわかる。

これは、ゴールデンウィーク前に、日本からの海外旅行者が事前に外貨を手当てすることで円安になり、その反動が出る、あるいは連休中で日本の投資家が動きにくい間に海外投機筋による円買いの仕掛けが入る、といった要因が考えられる。また、一時的とは考えるが、最近発表された米経済指標に弱いものが目立ったため、それを口実とした米ドル売りもかさみそうだ。

為替相場以外の要因としては、足元では企業の決算発表が進んでいる。特に注目される2016年度の収益見通しについては、おそらく企業側が発表する数値を単純に合計すると、前年度比減益となる可能性が高い。やや長い流れではどうだろう。日銀が動かなくても、また米連銀の利上げが極めて慎重なペースでも、日米の景気格差・金利格差を踏まえると、当面の円買いが一巡すれば、実態に沿った米ドル高・円安が進むだろう。

また、足元の決算発表において、企業側の収益見通しが慎重であること自体は、すでに株式市場に(まだ完全でないとしても)織り込まれつつある。アナリストも企業側の慎重さに敬意を表して、また現在の円相場の水準を反映して、収益見通しを下方修正しようが、それが下方修正のピークとなり、むしろ先行きは上方修正含みとなるのではないか。

とすれば、今週を中心に国内株価は下ブレれが懸念されるものの、2月12日の日経平均1万5000円割れのいちばん暗いところまでには至らず、4月の1万5700円水準に並ぶか、小幅割れる程度といった「二番目に暗い」局面となって、それを通過すればまた明るさが戻ると見込んでいる。そうしたなかで、今週(といっても2日(月)と6日(金)しかないが)の日経平均株価は、1万5700~1万6100円を予想する。
 

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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