(中国編・第二話)NPOが中国の巨大メディアと提携

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 その夜の懇親会で、私は、中国のその若いメディア人とある発言を契機に激しい口論になったのである。
 「私たちにとって関心があるのは米国で、日本ではない」。平然と語る張平氏に私は食って掛かった。「中国の政治家がそういうのであれば一つの意見として聞くことができる。しかし、君はジャーナリストだ。隣国を関心ないと言い切るのなら言論人として問題だ」。
 かなりの時間、私たちは言い合いになった。その場に同席した財務省の友人には「君も立派な外交官になれる」と後日冷やかされたが、内心、これはかなりまずい状況だなと、私は思っていた。

当時、言論NPOはアジアの将来構想を民間側から政治に提案しようと、多くの有識者を集めて研究会議・アジア戦略会議(福川伸次座長)を設置し、3年がかりの議論を行っていた。このシンポジウムはその一環として行われたものだが、アジアの将来を巡って中国との議論が、ここまで噛み合わないというのは、日本の将来の選択肢を形成する上でもかなり危険なことだと思えた。
 張平氏は英国でジャーナリズムを学び、中国でインターネットメディアを成功させた人物である。チャイナディリーはかって政府の対外広報の役割を担っていると見られていたが、今では中国の巨大メディアのひとつであり、国際派が揃っている。
 シンポジウムにも参加していた国分良成慶応大学教授は、当時の日中関係悪化の局面下の中国の状況をこう分析していた。「中国の外交はアメリカとの関係を重視する国際派が増えており、親日派は影響力を失い始めている」
 そうであるならばなおさら、こうした新しい世代と真剣に対話を行う必要がある。日中の間に新しい民間主導の議論の舞台、トラック2を作ろうと私が考えたのは、後から思い出せばその時だった。

その日の夜のことは実はそれ以上、あまり覚えてはいない。ただ、友人によると、こうした対話のチャネルを作るため、訪中する、と私は言い続けていたのだ、という。翌朝、ホテルのロビーで二日酔いが残る私に笑顔で話しかけてきたのは、張平氏の方だった。
 「工藤先生の言っている通り。私たちはもっと本音で議論をすべきだ。秋の訪中を待っている」
 私がスタッフと北京に向かったのはその半年後の9月のことである。
 日本の小さなNPO。しかも対中国の交流ではほとんど実績のない存在である。熱意しか私には力がなかったが、どうしても、日中対話の舞台を作りたかった。私たちNPOの議論活動は、国境を超えることになったのである。


工藤泰志(くどう・やすし)


言論NPO代表。

1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。

言論NPOとは
アドボカシー型の認定NPO法人。国の政策評価北京−東京フォーラムなどを開催。インターネットを主体に多様な言論活動を行う。
各界のオピニオンリーダーなど500人が参加している。


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