富士川を渡ると、今まであれほど大きく見えていた富士山はあっという間に見えなくなる。由比の丘陵地帯に入り視界が遮られるのと、下り列車の場合線路が南西方向を向き、富士山を背にする形になるからだ。まもなく平野に出て静岡市街に入るがビルが多い上に方角が悪く、静岡駅の前後では意外なほど富士山は見えない。
静岡駅を発車すると間もなく安倍川を通過。ここを渡ったところからが、もうひとつの富士山ビュースポットだ。安倍川を渡りきった地点から新幹線は30秒ほど真南に進路を取る。この時、A席側、つまり海側の車窓に、富士山が現れるのだ。
東海道新幹線で、海側の車窓から富士山が見える「左富士」は、ここだけ。しかも下り列車の場合、後方にちらりと姿を見せるだけなので、天気のよい日で、かつよっぽど注意していないと気付かない。そこで最近では、見えたら幸運が訪れる「幸せの左富士」とも呼ばれる。
国鉄も調査した「左富士」
この「幸せの左富士」には、こんなエピソードがある。1975(昭和50)年、当時の国鉄は山陽新幹線博多開業を機に新幹線に本格的な食堂車を導入した。この食堂車は、新幹線の広い車体幅を活かして客室と通路を分離したが、登場当初は、山側に設けられた通路と食堂の間の壁に窓がなかった。そのため、「食事をしながら富士山を眺めることができない」と不満が多数寄せられた。
そこで国鉄は東京〜新大阪間の車窓風景を調査。「静岡駅付近で、海側の車窓から富士山が見える」と公表したという。しかし、それで乗客が納得するわけもなく、結局1979(昭和54)年に、山側の壁に窓を設置する工事(通称「マウント富士計画」)が行われている。
左富士を過ぎると、富士山とはいよいよお別れだ。浜松周辺でも山やビルに遮られてほとんど見えない。最後にちらりと姿を見せるのは、浜名湖だ。冬のよく晴れた日に、浜名湖を通過中の車窓から湖越しに小さく頭をのぞかせる富士山が見えることがある。筆者はまだ一度しか見たことはなく、撮影も成功していない。
富士山は、東海道新幹線の大きな楽しみのひとつだが、いつも見えるとは限らない。これからの時期は、ちょっとした運試しのつもりで注目してみよう。
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