スタインウェイピアノが投資対象になるワケ 輸入高級車と重なる「絶妙な」ブランド戦略

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かつては「故障して当たり前」と言われていたラテン系の車たちは、魅力的ではあっても購入となると躊躇してしまう存在であった。ところが“ジャポン”の設立によって不安は一掃。車自体の品質向上とも相まって、安心して購入できるようになったことは喜ばしい。それが証拠に、街で見かけるお洒落なラテン車の数がこの数年着実に増加しているように思える。

そのジャパンを頂点とした販売システムをピアノ業界にいち早く取り入れたスタインウェイには先見の明があったといえる。規模では車業界に比べようもないが、全国展開を想定すればその効果は絶大だ。"スタインウェイ・アーティスト"と呼ばれる選り抜きのピアニストたちが、スタインウェイ・ジャパンからの斡旋によって全国のディーラーの元へと派遣され、コンサートを通じてスタインウェイピアノのすばらしさを広く知らしめる役割を担っているのもその一環。

さらには、日本人のブランド好みをくすぐるような仕掛けも新たに考えられているようだ。コンサートのステージ上に鎮座するピアノを見ると、まず目につくのがピアノメーカーの美しいロゴだ。漆黒のピアノに映えるロゴは、どこか車のエンブレムにも通じる。スタインウェイでは、そのロゴマークをこれまでつけていなかった小型グランドピアノの側面にもつける動きがあるという。

完璧な自動機能はピアノが先か車が先か

コンサート用のグランドピアノには、両側面にロゴを付ける用意があるそうだ。これは、2台ピアノによるコンサートの場合、ピアノ同士を向き合わせると一方のピアノのロゴが見えなくなってしまうためだとか(*側面ロゴについては基本的には、B-211以上のモデルが対象。両面ロゴはD-274のみ)。いやはやすごい。そう言えば、2015年の輸入車シェアNo1に輝いたメルセデスに於いて、あのシンボル的な“スリーポインテッドスター”がどんどん大型化してきている。日本人のブランド好みをくすぐる要素のひとつだろう。

さて、今後ピアノはどのような方向に進むのだろう。ピアノというと、黒のイメージが強いが、元来ヨーロッパではピアノは家具のひとつで木目のピアノが主流であった。スタインウェイ・ジャパンによれば、最近黒いピアノから木目を生かしたピアノへと人気が移行しているという。前述のサロン需要によって、部屋の雰囲気に似合う美しい調度品のような木目のピアノが選ばれるのは自然の流れだとも考えられる。

そのサロンの主はピアノを弾かないとしたら、弾き手が不在の場合はどうするのだろう。車の世界では自動運転がホットな話題。いつの日か、運転は車任せなどという時代が来るのだろうか。そう考えれば、サロンにおける自動演奏ピアノはすでに現実の話として成り立ってはいるが、残念ながらとても満足できる代物ではない。都内某ホテルのラウンジで使われている自動演奏ピアノなどは、まさに騒音そのもの。完璧な自動機能を手に入れるのはピアノが先か車が先か。両者の熱烈なファンとしては、ますます目が離せない。

田中 泰 日本クラシックソムリエ協会 代表理事

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たなか やすし / Yasushi Tanaka

一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当。2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE「モーニングクラシック」「JAL機内クラシックチャンネル」等の構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。

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