ショーンK「熱烈擁護意見」がはらむ危険性 詐称は相互信頼で成り立つ仕組みを破壊する

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”話が横道に逸れた”と感じただろうか。

しかし本質は同じだ。事業計画の細かなデューデリジェンスを行わなくとも、少額から出資を集めて事業を組み立てて行くクラウドファンディングの仕組みは、相互の信頼関係によって成り立っている。それでも、自分たちの姿を過大に見せようとするあまり、不可能な約束をかさねる者が増えてくれば、クラウドファンディングのシステムは崩壊していくに違いない。

学歴、職歴、業務実績、保有資格、あるいは名刺の所属部署や肩書きなどの情報は、実際の業務遂行にはまったく関係ない。人間関係は、その人自身によって作り上げていくものだ。しかし、その業務遂行に関係ない情報を詐称することで、”最初の一歩”を簡単に踏み出すのを許してしまえば、もっと住みにくい世の中になると思う。

優秀な司会者でありナレーター

ところで、筆者は川上氏が司会やモデレートを担当するイベントやパネルに参加したことがある。知人には、川上氏とともに仕事をしていた人物もいる。経歴を取り外した素の川上氏の仕事ぶりは、優秀な司会者、ナレーターという印象だった(当時は経営コンサルタントを名乗っていることを知らなかった)。

後に経営コンサルタントであると知ることになるが、「専門性に欠けるコメントばかり」と耳にした評価も、むしろ”賢さ”の象徴として捉えていた。なぜなら、テレビなど時間的な制約が厳しいメディアで、コメントを専門的に掘り下げても、意図が充分に伝わらないからだ。

テレビ視聴者向けに、誰もが納得しやすい、そして視聴者が聞きたいだろうと想像されるコメントを意識して出すことにより、テレビ出演の機会を得ているのであれば、そうとう自分自身を見せることに長けているだろうと、あまり深く考えないまま納得していた面もある。

実際にコメンテーションを行うと実感するが、嘘にならず、反発もされない、しかし多くの人が納得できるコメントを即時に出すというのはかなり難しい。アナウンサーとしての能力が高いことに加え、番組内で扱うテーマに対して熱心に勉強したのだろう。

川上氏は、世に出て名声を上げていく方法を完全に間違ってしまった。このため、これまでの彼への評価は、いったん”ゼロ”になったと言える。しかし、壊れた信頼は再び積み上げていけばいい。彼の築いてきた信頼という絆は断ち切れたかもしれないが、あらたに作り直していけば、司会やコメンテーターとしての才能を活かせるだろう。

”信頼関係をもとにした社会システムの破壊”行為を批判することと、ひとりの人間の過ちを許すことは決して矛盾しないと思う。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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