原発汚染水問題で販路失った水産業者の苦境 生業の再建を阻まれ、被害の立証も難しい

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経営する水産加工会社が事実上の廃業に追い込まれた阿部晃治さん

当時、宮城県内で水揚げされた魚介のうち、マダラやスズキから基準を上回る放射性物質が検出されていた。これによるイメージダウンが現地主力産品のカキやワカメにも波及。復旧途上の水産業者に大きなダメージを与えた。

3000万円ほどあった借入金が返せなくなったことで、阿部さんの債務は銀行から信用保証協会へと引き継がれ、返済の督促が来るようになった。自宅も担保に入っているため、80代の父母を養う阿部さんは、不安にさいなまれているという。

復興のための工事があちこちで進む被災地だが、取り残された被災者は少なくない。中でも原発事故による影響は広範囲に及び、生業の再建を阻んでいる。佐藤さんや阿部さんの苦境はその象徴だ。

津波で資料が失われ、被害の立証が難しい

原発事故の被害者に、政府が救済の手だてとして用意したのが、裁判外紛争解決手続き(原発事故ADR)だ。「原子力損害賠償紛争解決センター」に和解仲裁手続きを申し立てることで、裁判よりも迅速に解決を図ることを目的とした仕組みである。

東電はセンターによる和解仲介案について、「尊重するとともに手続きの迅速化に引き続き取り組む」と、「3つの誓い」の中で述べている。

しかし、被災者にとって、損害賠償を勝ち取るための被害の立証は容易ではない。前出の佐藤さんは津波被害で、ホヤの出荷に関する書類の多くを失った。そのため、被害の正確な立証が難しいという。また、「震災後に増産に転じた理由が(東電から)なかなか理解されずに、自己都合によるものだと思われている」(佐藤さん)。

原発事故から5年が経った現在でも、知られざる被害は続いている。

「週刊東洋経済」2016年3月26日号<22日発売>「核心リポート04」を転載)

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