(第10回)<加藤丈夫さん・後編>教育の質を上げるなら教師の待遇をよくすべきだ

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(第10回)<加藤丈夫さん・後編>教育の質を上げるなら教師の待遇をよくすべきだ

●開成の教育と中高一貫教育のメリット、デメリット

 今の開成学園ですが、学校に行くと教室もきれいなんですね。我々の頃はカーテンなんて一日も持たずみんなビリビリになっているし、ドアなんかもロクについていない。ヤンチャな男達という感じでしたね。昔に比べれば今は上品になってきましたね。
 それから、開成で一番いいのはいじめがないこと。今の校長は「いじめと授業妨害は許さない」と断言し、妨害するくらいなら自分が授業をさぼってもいいと。要するに弱いものいじめをするということは一番卑怯なわけで、卑怯なことはしちゃいけないよっていうことを教え込むんですね。授業や何かでいうんじゃなくて、学校の雰囲気として、そういうことはできない学校だってなるわけです。
 私の頃も、やんちゃな範囲でのいたずらっていうのはもちろんありましたけど、記憶を思いおこしても暴力的なことっていうのはないですね。
 中学二年、三年の男の子っていうのは精神的に、成長の過程で不安定になり、そのときに爆発したりする。むしろ、校内暴力なんていうのは、中学のときのほうが心配なものです。そのときに中高一貫で運動会やクラブ活動なんかで高校生とつきあっていると、あんまりそういうのはなくなるんじゃないかと思っています。

 もうひとつ、最近首都圏の高校でも女子部を作って成功している学校がありますけど、開成は男子だけでやるという方針でいます。男性と女性というのは、一緒にいると気が散るっていうこともあるけど、発育のレベルが違うというのがありますでしょう。女性のほうが知的・肉体的レベルの発育が早い。高校くらいまではそれぞれに集中した方がいいなって思っているんですけどね。
 共学が増えているというのは、教育的な観点というより、少子化で経営に困るからです。しかし女子部を作ると設備が男子よりかかりますよね。

 中高一貫教育というのは何がいいかというと、六年一緒です。中一から高三までが一緒に、運動会なんかでも組になる。そうして戦うわけですね。
 高校や中学で三年の差というのはそんなに大きな差じゃないんだけど、中学一年生から高校三年生をみたらもう、おじさんですよね。
 そういう人たちに叱られたり、鍛えられたりする。少し年齢の離れた先輩達から同じ学年までいるっていうのが、中高一貫校のメリットだと思いますね。
 このよさというのは、勉強がつながっているというより、人間がつながっているというのがいいんですよね。 今、都立の学校が中高一貫に変わりつつありますよね。それは勉強のメリットより人間関係がきちっとできるということがいいなと思っています。

 デメリットは、やはりたるみが出ちゃうことです。勉強の習慣というのは一度失ってしまうと取り返すのがものすごく大変になってしまう。六年間の中ではどうしてもたるみが出ることがありますね。
 一方で、中三のときにたとえば受験勉強じゃなくて、古典をきちっと読むとか、歴史を自分で勉強するとか、受験生活ではできない勉強に集中できるという魅力はあります。
 開成は高校からも入れます。中学は一学年300人ですが、高校で100人増えますから、一年だけ、進路をあわせるために別のクラスにして高校二年になったら混ぜます。100人入ってきて、いい刺激になると思います。余談ですが、運動会は毎年5月の第二日曜に開かれますが、そのとき、高校から途中で入ってきた人たちは一つの別のクラスになるわけです。赤、白、青と8色くらいの組にわかれて優勝を競います。高校から入ってきた生徒はまだ一ヶ月でしょう。そこで開成に慣れるわけですが、その一年の時には、騎馬戦やったりリレーやったりすると、「開成のやつなんかに負けるなよ!」って声が聞こえてね。お前らも開成じゃないかよってね(笑)。  それが一年経つと溶け込むんですね。

●親離れじゃなくて子離れ。

 うちでは、兄妹が七人いて男が五人。一番上の兄は成城高校に行ったのですが、その下は全員開成高校に行ったので、私の母は、昭和23年から昭和39年までの16年間、連続PTAということになりました。父は父で、一番下の弟の時にPTAの会長をしていましたから、親子で開成に縁がありました。

 私の両親はそんなわけで学校にちょくちょく来ていましたが、昔は親が学校に来るなんていうことは滅多になかった。悪いことして呼び出されて叱られるというくらいで。学校に来るときは親が緊張したもんです。しかし今は、お母さんたちがいろんな機会に学校に来ます。運動会、文化祭、この間の3月1日も卒業式がありましたが、両親そろってというのも珍しくない。それからおじいさんおばあさんも来ます。昔と何が変わったかと言ったら、親が学校に来る回数が多くなったってことですかね。
 OBたちの中には、「なんでこんなに親がいるんだ、追い払え」なんてやつもいるんですが、私は、親と子どもが学校に関わるっていうのはね、いいことだと思いますけどね。行き過ぎた干渉は困りますし、けじめつけないとですがね。
 ただ開成にくる生徒もそうですが、今は小学生の頃から塾に行くでしょう。そのときに母親がずっとついていくから、そうすると母親と息子が一体となっちゃうような雰囲気がありますね。中学に入っても、高校になってもその癖が抜けず、そういう面では親離れというよりむしろ、子離れをしてくださいっていいます。

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