●『漫画少年』と父

大学卒業で就職するときに迷いました。さっき言った尊敬する先輩の森島さんは、そのまま大学に残って助手になったんで、自分もそのまま残ろうと思い、就職の解禁日にどこにも行かなかったんですね。しかし本当はジャーナリストになりたかった。けど、大学四年の卒業する直前になって、就職を考え、どうも親の顔がチラチラする業界には行きたくないという変な反発心があり、まったく縁のない電機会社に就職したんです。私の父というのは、講談社に入る前に学校の先生をやっていました。私も開成の理事長をやったり、本を書いてみたり、編集に興味を持つっていうように、だんだん年をとるにつれて親父の影っていうのは大きくなるものだなあって、面白いものです。どうも、息子っていうのはいくつになっても親父を乗り越えられないもんだなって。
●教育レベルを上げるには教師の待遇をよくすべき
戦後の日本の教育というのは画一的底上げ主義ということで、全体をレベルアップしたというのは大変な成果だと思います。だから日本の技術力が世界でトップになったり、これは大変な成果だと思うんですね。しかし逆に、画一的、平均的に走りすぎて、個性を伸ばせなかった。そうするとやっぱり社会のリーダーが育っていかない。エリートという言葉を使うと差別的な言葉のようで、教育の世界からなるべく使わないようにしていきたいということがありますが、今は政治の世界もそうだし、経済の世界もそうだけど、優れたリーダーがいなくなってしまった。
今後は、特徴のある人材を育てることをやるべきだと思いますね。チャレンジをする学校がでてくればよいと思います。
リーダーというのは何かというと、高い志があるかどうかだと思います。
現状に満足しない向上心。
絶対に悪いことをしない倫理観。
いつも弱い者の味方になるという正義感。
それがリーダーの条件だと思うんです。倫理観とか正義感を持ったリーダ?というのが最近少ない……と。
卒業式のときに毎回言うのですが、「とにかく弱い者の味方になれ、それが恵まれた教育を受けた者の義務だ」ってことをいう。
また、これは本当に難しいことだけど、先生の免許の更新制なんてそう軽々しく導入すべきではないなとも思っています。やっぱりいい先生をたくさん作ることが大事で、いい先生を作るには何が一番いいかっていうと、先生の待遇をよくすることですよ。東洋経済よりも、開成のほうが待遇がよければどっちがよいか?ってね(笑)。いろんな難しいことを抜きにして、まず給料をよくします。その代わり、採用条件を厳しくします。その二つの基準でやればいい人が集まる。教育改革とかあまり難しいこと言わないで、先生の待遇をよくすればいいんじゃないかと。でも、今はちょっと逆の方向にいってますよね。フィンランドでは、小学校の教員でも大学院卒じゃないとだめなんです。実習体験も、日本では三ヶ月くらいなものが一年以上義務づけられています。しかし採用条件は厳しいけど給料はそんなに高くないと言ってましたが……。
開成は今、定年が68歳です。トップ校にはトップ校にふさわしい額の給料を払う。でも、あんまり学費をあげたくない。先生の給料をあげて、授業料おさえて、健全経営をすれば、施設がボロボロになるのは当たり前なんですよね。今、校長とも話しているのですが、外見じゃない、中身でいこう、中身の勝負だって。男の子はきれいなところで勉強しなくてもいい。むしろ、きれいじゃないところで勉強したほうがいいんじゃないかって。そのことをお母さん達にもきちっとわかってもらいたいですね。
(取材・撮影:田畑則子)

1938年東京都生まれ。
開成中学校・高等学校卒業。1961年東京大学法学部卒業。
同年富士電機製造株式会社入社。代表取締役副社長、会長を経て、2004年6月から富士電機ホールディングス相談役。2000年より学校法人開成学園理事長兼学園長。経済同友会「学校と企業・経営者の交流活動推進委員会」委員長。2005年7月に厚生年金基金連合会理事長に就任。
著書に、『「漫画少年」物語-編集者・加藤謙一伝』(都市出版)がある。
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