(第13回)<竹内誠さん>地域再生が教育の鍵となる

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●親が教師や学校を信頼していた

 それから、昔と今の違いでいえば、学校と親の関係です。そりゃ、大きい怪我はだめです。しかし、昔は騎馬戦でも何でも本当に戦いますから傷だらけです。でも、今はちょっと何かあると大騒ぎ。運動会などでかすり傷程度のことでも大騒ぎになるというのをよく聞きます。度合いの問題ではあります。しかし今の親が学校を追い込み過ぎるという面もあると思います。先生に対しても、もちろん変な先生もいますからなんでもかんでも尊敬しろとは思わない。けど、親が尊敬しない教師のいうことを子どもが聞くわけがないのです。親の姿勢が問題なのです。聞けば、「あの先生が嫌だ」とか親がすごいこといいますからね。
 私の時代が決していいわけがない。しかし善し悪しは別にして、昔は学校や先生をとても尊敬し、信頼していました。

 あるとき、算数の時間に先生にコンパスで殴られたことがあります。ものすごく痛かったのですが、そうされて家に帰って「先生にこうされた」というと、親は先生よりもっと怒るんです。先生に叱られたという行為に対するさらなるおしおきがあるのです。お灸をすえるというね。親が厳しかったというのもありますが、親がそこまで学校を尊敬、信頼していたってことですよね。
 今、学級崩壊などもあるわけですから、学校の教育力も欠けているかもしれない。そして少子化で家庭での社会性、家庭での教育力も昔に比べたらなくなっている。しかし、今、最も欠けている、壊滅的なものは「地域の教育力」だと思うのです。地域再生というのは子どもを育てる上でも大切なことだと思います。

●江戸への嗜好性が高まる理由

 子どもは家に置いておくものではない。近所の空き地など、外で遊ぶもの。しかし今は車社会で、遊べる場所がなくなっている。車と人とを分ける都市計画をしないといけない。今までは経済効率を第一に自動車が通れ、人間も通れるという作りをしていた。二兎を追う物は一兎をも得ずといいますが、両用は無理だなということを都市計画で考えていくこと。そして、地域とは空間だけではなく、人の心が大切です。そこに空き地がなくても、隣近所はお互いに支え合っていきましょうという共助共生が地域再生の鍵です。お祭りに出るとか、火の用心とか、何か自分でも地域のことをしているという意識を持つことです。お祭りは一年に一回ですが、日常的な地域貢献をしたり。

 20世紀は大量生産、大量消費を美徳とした物と量の時代でした。しかしこれによって公害が起きたり、限りある資源を浪費したりした。それぞれ人々は体型も違えば個性もあり、同じ物を着て満足するわけはない。21世紀は物より質、心の時代ということがクローズアップされてきています。
 近年、江戸検定など単に知識を試す試験なのに1万人以上の人が集まって来たり、江戸への関心が高まっている。江戸は、物質的には貧しくても、職人が手作りするから製品の質が高い。それぞれの需要に応える形でものを作っていた。江戸時代は決していい時代ではないけど、その時代を生きた人々の中に我々が忘れてしまったことがある。だから江戸への嗜好性が高まっているのだと思います。

●江戸東京博物館での取り組み

 江戸東京博物館でできることは何かということで取り組みも行なっています。所蔵品で何か社会貢献をできないかと考えています。
  数々の高齢者元気プロジェクトという取り組みの中で、館内に昭和30年代の家屋を再現しました。すると、周辺の子ども達が不思議とそこに集まって、おはじきをやって遊んでいるんです。どうして来るのかなと思っていたら、「うちには畳がないから」と。よく考えると、丸いちゃぶ台に畳で、目線が全体的に低くなり、子ども達がまさに膝をつきあわす関係で『和』ができるんですね。机ではやっぱり構えてしまうものなんでしょう。
 そんな風に子ども達が遊ぶ横に、普通におじいさん達が来ます。キセルやはえたたきなど、昔のものが列んでいるのですが、それをおじいさん達がどういうものかと説明したりしています。高齢者元気プロジェクトと子どもの居場所プロジェクトが意識しなくてもできてしまいました。
 それから、学校から帰ってきて子ども達がやってくる。毎日のように来る子がいて、今度はその子たちを子どもボランティアにしようということで、「江戸っ子」という腕章をあげました。博物館で遊ぶということが決していいわけではない。しかし家では、「危ないから外へ出るな」と言われ、奥へやられてしまう。それはよくない。子どもが外で遊べる場所を作らなければならないと思うのです。
(取材・撮影:田畑則子

竹内誠<たけうち・まこと>
江戸東京博物館館長。
1933年、東京都生まれ。
東京教育大学大学院博士課程修了、文学博士。専攻は江戸文化史・近世都市史。東京学芸大学名誉教授、立正大学文学部教授なども務める。
著書・編著に「元禄人間模様」など。

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