「東京入国管理局収容所」の厳しすぎる現実 スリランカ人のニクラスはなぜ死んだのか
彼の遺体を解剖した東京医科歯科大学の上村公一医師は、この事案については事件性のない通常の解剖事案とは異なり、法務省から鑑定書を書くよう依頼があったと明かした。さらに入管側が改善すべき点についても、医師としての意見を書き添えるよう要望されたという。
同医師は、法務省がこのケースを特別扱いにした理由について、ニクラスへの医療が適切に行われず、病気が悪化した可能性がかなり高いと判断したからではないか、と話す。
同医師自身も、彼の様子をとらえたモニターカメラの映像を確認し、画像は良くなかったものの苦しんでいる様子はわかったと指摘。入管側の対応は遅く、収容施設の医療全般についても「かなり不十分」との見方をしている。
実現していない再三の改善勧告
日本で不慮の死をとげたニクラスのケースは、遺族にすら十分な説明がないまま、過去の出来事になりつつあるかに見える。
だが、緊急の救命医療を求めたニクラスに対し入管側の配慮に不備はなかったか、さらにこうした事態を未然に防ぐ対策を当局は十分にとっていたのか、さまざまな問題はなお残っている。
入国者収容所の運営を監視する機関として、法務省は2010年に、法曹関係者、医療関係者、学識経験者、NGO関係者など10人からなる「入国者収容所等視察委員会」を東日本、西日本にそれぞれ1つずつ設けた。視察委員の氏名は非公開で、各委員には視察内容などについて「守秘義務」がかかる。ニクラスの事案は、死亡の2週間後、同委員会に報告された。
ロイターの取材によると、委員会は資料の分析などを行い、昨年7月、施設側の対応を「不適切」とする文書を東京入国管理局長に提示した。
その中で、同委員会は、救命治療を訴えたニクラスへの対応について、「職員は重篤性の判断を誤り、直ちに救急搬送しなかったことから、死亡という結果を回避する機会を失ったものと思われる」と指摘。さらに「被収容者の生命を守るべき施設として、不適切な対応があったと言わざるを得ない」との判断を示している。