「東京入国管理局収容所」の厳しすぎる現実 スリランカ人のニクラスはなぜ死んだのか
取材に応じた人々の多くは、収容所の警備官がニクラスに起きた異変を正しく判断すれば、救命できる可能性もあったと証言する。
さらに、収容所では被収容者の健康悪化、精神障害、突然の死亡などを防ぐため医療体制の整備が急務になっているが、公的な監視機関、日本弁護士連合会などからの再三の改善要請にもかかわらず、当局の対応は遅々として進んでいない、という実態も明らかになった。
ガラス越しの最後の面会
入国管理局は、収容命令を受けたり、本国への送還措置が決まった外国人を収容所に入れ監視下に置く。厳重な警備が敷かれた施設内では、自殺を含む死亡事故、自傷事件、あるいは拘禁状態が長期間続くことによる精神疾患の発生が後を絶たない。
法務省によると、全国17の施設に収容されているのは1070人(2015年11月1日時点)。これらの施設では過去10年間に4件の自殺があり、12人が収容中に死亡した。最も新しい事例であるニクラスを含め、4人の死亡事案は2014年11月までの13カ月間に起きている。これ以降、死亡事案はないが、自殺未遂や自傷事件は東京入国管理局で14件(2015年)発生している。
ニクラスの急死は、こうした日本の入管収容施設の厳しい現実をあらためて物語っている。
ロイターの取材によると、彼がスリランカを離れたのは、日本で難民申請をしている息子に会うためだった。次男ジョージ(27)は妻と一緒に同年11月12日、羽田空港に父を迎えに行った。しかし、何時間も待ったが、父は到着ゲートから出てこなかった。
ジョージが父に会えたのはその2日後の14日。「触れることもハグすることもできなかった」ガラス越しの面会だった。観光ビザで来日したものの、ニクラスが観光目的を証明できないとの理由で空港内の収容施設に拘束されていたためだ。
入管法に詳しい複数の弁護士によると、観光ビザを持っていても、所持金不足などで観光目的が疑わしいと判断され、入国が許されないケースは珍しくない。法務省によると、2014年には、2226人がそうした理由で入国不許可となっている。
ガラス越しのやりとりが、ジョージにとって父との最後の面会になった。ニクラスは17日、出入国管理及び難民認定法に違反した疑いがあるとして羽田空港から品川の東京入国管理局に移送され、5日後の22日に心臓発作を起こして他界する。
ロイターが確認した資料や目撃証言によると、ニクラスは死亡当日の午前7時19分に収容施設の警備官に胸の痛みを訴えた。警備官は心拍数と血圧を測定、その際に異常は認められないと判断したが、あらためてニクラスの症状を確認するため、同8時少し前、彼を別室に移した。通訳をする別のスリランカ人被収容者も一緒だった。