(第8回)周囲の支援でストレスを和らげる

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●周囲の支援を得るために

 では、どのようにすれば、他者とのつながりを深めて、支援を得ることができるのだろうか。ここでも感情がキーワードになる。今まで述べてきたように論理的に思考する機能より感情の機能のほうが人間をより強く支配している。つまり、上司、同僚、家族などとの感情面のつながりを重視して行動する必要があるのだ。
 まず、自分ではなく、周囲の人の感情に注力しよう。理屈や論理でなく、どのように感じているかに敏感になるのだ。

 例えば、横から飛び出してきた車に腹を立て、立て続けにクラクションを鳴らすドライバーがいる。「クラクションをそんなに鳴らさなくてもよいのに…」という批判を思い浮かべる前に、そのドライバーの感情を理解しようとしてみよう。他人の行動を批評しても何も生まれないからだ。感情に注目すると「横から出てきた車を危険な運転をすると思って、頭にきてるんだな」と感じることができる。もしもそのドライバーと話すことができ、ドライバーの怒りに貴方が理解を示したら、怒りはおさまり、貴方とのつながりを感じるだろう。貴方が運転の乱暴な車でヒヤッとして怒りを感じたときには、反対になだめてくれるかもしれない。

 上司や同僚、家族からサポートが得られないと思うなら、本当は自らの働きかけが足りないかもしれないと、考えてみることを勧めたい。冷たく見える上司もさらに上の上司に数字を達成せよと命じられてつらいのかもしれない。階層が高いほど、自社の情報を知る機会が多いものだから、先行き不安をより強く感じているかもしれない。職場に派遣や臨時雇いの人がいたら、将来的な不安をもっと感じているだろう。給与や賞与が減るだけでなく、雇用そのものに不安を覚えているかもしれない。配偶者に接するとき、自分が忙しいからと働き手は考え、その理解がないと嘆くものだ。しかし、反対に働き手が日常的な雑事には関心を持ってくれないと、配偶者の方が毎日の生活に追われ、ストレスに苛まれているのかもしれない。

 そして、気がつくことがあれば、様々な人の感情を理解するように努めながら、自ら話をしていくことだ。職場や家庭以外の地域の活動や趣味の場でもよい。億劫がらずに試みてみよう。人とのつながりを強めることは、自分への周囲からのサポートの幅を広げるだけでなく、自分のストレスに向きがちな関心を切り替えるよい機会にもなる。

 次回は、今回の応用編を含めて、ストレス対処にも有効なコミュニケーションのコツを紹介しよう。
2009年3月26日発売
人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門
図でわかる、適切な対応ができる
亀田高志 著

詳細およびご購入はこちらから
亀田高志(かめだ・たかし)
(株)産業医大ソリューションズ 代表取締役社長/医師(HP: http://www.uoeh-s.com/
1991年3月産業医科大学医学部医学科卒業。日本鋼管病院勤務、NKK(現JFEスチール)産業医、日本アイ・ビー・エム(株)産業医、IBM Asia Pacificの産業保健プログラムマネージャーを経て2005年7月より産業医科大学産業医実務研修センター講師。2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。企業のメンタルヘルス対策に関するコンサルティング、様々なメンタルヘルス研修会の講師に加えて、産業医科大学における企業向けメンタルヘルス対策支援事業を担当。
著書は『人事担当者、管理職のためのメンタルヘルス入門』(東洋経済新報社)。その他、日経ビジネスオンライン『事例で学ぶメンタルヘルスのツボ』、Work(リクルートワークス社)『健康経営のココロ』を共同執筆。
亀田 高志

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