タンス預金用の「金庫」が売れまくる異常事態 マイナス金利で不安心理が広がっている

拡大
縮小

こうした需要増を背景に、金庫メーカーには注文が殺到している状況だ。家庭用金庫で日系メーカーとしてはトップシェアの日本アイ・エス・ケイ(旧キング工業)は、前年同月比2ケタ増のハイペースで出荷。同社の株価はこの1カ月間で150円から一時300円まで急騰した。

また、2012年に「ディプロマット」ブランドで輸入販売を始めたディプロマット・ジャパンでも、販売が急拡大。これまで家庭用金庫といえば、9月1日の防災の日に合わせて動きがあるくらいだった。ところが最近では3万円前後の家庭用金庫がにわかに売れ始めている。「家庭用は出荷が倍近い」(担当者)。

ほとんどが業務用ニーズ

金庫はもともと、金融機関やオフィスで重要書類を保管するなど、業務用ニーズが大半を占める。経済産業省によれば、耐火金庫の出荷金額は1990年に160億円あったが、2014年には64億円へ縮小。それが2015年10月以降は、単月ベースで、前年同月比2割増の勢いだ。

「マイナンバーやマイナス金利の導入で不安に駆られた人々が金庫を買っているのではないか」。富裕層の動向に詳しい、コンサルタントの小林昇太郎氏は指摘する。

マイナス金利の導入を機に、今やメガバンクの普通預金の金利は年0.001%。「この先、銀行に預金をしておくだけで金利や手数料を取られるのではないか」といった発想から、需要に拍車がかかっているようだ。

もっともセキュリティの面からは「金利が下がったとしても、自宅に現金を置いておくより銀行に預けたほうが安心」(家庭警備最大手のセコム)というのが現実。タンス預金のため金庫の購入に走る人々の姿を見るかぎり、マイナス金利が老後の資金に対する不安をさらにあおってしまった、といえそうだ。

「週刊東洋経済」2016年3月5日号<2月29日発売>「核心リポート02」を転載)

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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