EU離脱か残留か、イギリス国民投票の衝撃度 離脱のリスクを過小評価してはならない

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また、首脳合意の土台となる欧州委員会からのEU改革の回答案が2月2日に公表されたが、英国政府が提案した改革案と比べて後退したとの受け止めやメディア報道が多く、その後に行われた世論調査ではさらに離脱派の勢いが増している。

他方、首脳合意の直後が回答時期に含まれる最新の世論調査では残留派が再びリードするなど、事態は依然として流動的だ。昨年5月の総選挙の結果が事前の世論調査と大きく食い違ったこともあり、世論調査の結果は当てにならず、一貫して残留が優勢とするブックメーカーの賭け率(オッズ)に着目すべきとの声もある。だが、全国レベルの世論調査の結果が、小選挙区制の選挙結果と食い違ったとしても不思議ではない。国民投票の結果は世論調査の結果をよりストレートに反映しやすい。

残留派が勝利したスコットランドとの違い

ただ、各種の世論調査では態度を決めかねている有権者が20%前後いる。態度保留者の投票の行方が、投票結果を大きく左右しそうだ。2014年9月に行われたスコットランドの英国からの独立の是非を問う住民投票では、直前の世論調査の一部で離脱派が逆転したが、最終的な投票結果は残留55%・離脱45%と予想以上の大差が付いた。

これは離脱時の先行き不透明感を嫌気した態度保留者が現状維持(=残留)を選択したためとみられる。今回の国民投票でも同様に態度保留者が現状維持を選択する可能性もあるが、スコットランドとは事情が異なる点もある。

スコットランドは英国から独立した場合、(1)英ポンドをそのまま利用するか、独自通貨を発行するか、EUの共通通貨ユーロを採用するか、(2)独立後にEUに再加盟することが可能か、(3)英国政府の資産や債務をどう配分するか、(4)北海油田の原油収入やエジンバラに拠点を置く金融業に依存して経済的に自立できるかなど、不透明要素が多かった。

それに対して英国がEUから独立した場合、(1)既に英国は独自の通貨を採用している、(2)域内での査証なし渡航を認めるシェンゲン協定を締結していない、(3)スイスやノルウェーなどのように他のEU諸国との間で自由貿易協定を結び、関税面でのメリットを享受し続ける可能性が高い、(4)金融業の国外移転が懸念されるが、EU内にシティに代わるだけの金融センターがないことなどを理由に、離脱後もこれまでと同等の経済的な地位やメリットを享受できる可能性がある。英国の場合、独り立ちへの不安はスコットランドほど大きくない。

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