総合電機は今後1~2年の業績見通し厳しい、財務耐久力の維持が不可欠《スタンダード&プアーズの業界展望》
上席アナリスト 柴田宏樹
2009年3月期の総合電機5社(日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通)の業績は、営業損益ベースで、おおむね1月時点で各社が出していた業績修正の範囲に収まった。しかし、事業構造改革費用の一層の積み増しや、鈍い収益回復見通しに立った繰延税金資産の取り崩し増加などにより、当期損益は業績修正見込みをさらに下回り、資本・負債構成は一段と悪化した。
製造業においては、昨年秋以降急激に落ち込んだ鉱工業生産が今年3月以降は回復に転じて、持ち直しの動きが見られるが、2010年3月期も国内外の景気が直ちに上向く兆しはない。このため、半導体、自動車、薄型テレビ、ハードディスク駆動装置(HDD)、携帯電話など幅広い分野で落ち込んでいる需要が回復するには時間がかかるだろう。スタンダード&プアーズは、今後1~2年の業績の回復度合いが各社の信用力に大きな影響を与えると考えている。そして、業績悪化が続いた場合に、それに耐えられるだけの財務耐久力の維持が、現在の格付けを維持するために不可欠であるとの見方に変わりはない。
スタンダード&プアーズは、東芝(BBB/CWネガティブ/A−2)の格付けを、4月20日付で格下げ方向の「クレジット・ウォッチ」に指定し、その後の決算発表と増資などの資金計画を受けて、5月11日付でこれを継続している。
また、日立製作所(BBB+/安定的/A−2)については、早期の業績の急回復は見込み薄との判断から、 大幅な業績の下方修正を受けて、2月2日以降引き下げ方向の「クレジット・ウォッチ」にしていた格付けを、6月9日付で「トリプルBプラス」に引き下げた。
NEC(BBB/ネガティブ/A−2)については、資本・負債構成が大きく悪化していることに加え、半導体事業の収益回復が遅れる懸念があること、なかでも2010年4月に予定されているNECエレクトロニクスとルネサステクノロジとの経営統合の内容や両社の経営統合後の同社の支援体制を注視していく必要があることから、アウトルックは「ネガティブ」としている。
三菱電機(A/安定的/A−1)と富士通(A−/安定的/−−)の利益水準は大きく低下しているが、さらに悪化する可能性が小さいことや、資本・負債構成の悪化度合いも比較的小さいことから、現時点では格付けやアウトルックを変更していない。ただし、両社ともさらなる業績の悪化や財務改善が長期化する見通しが高まった場合には、格付けやアウトルックが下方修正される可能性は高まると見ている。