アシックスが描く「米国首位作戦」の現実味 思わぬ誤算があっても米国を最重視

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米国で躓いたとはいえ、アシックスにとっては米国を攻めていくのが最重要の戦略となっている。会社は決算発表と同時に、2020年までに売上高7500億円以上、営業利益率10%以上を目標とする中期経営計画を発表した。記者会見の場で尾山基(おやま もとい)社長は「まずは米国でナンバーワンになりたい」と語っている。

切り札はフィットネスアプリ会社の買収

決算会見で尾山社長は、米国でのシェア拡大に強い意欲を示した

その切り札が、同じ2月12日に発表した米フィットネスアプリの運用会社「フィットネスキーパー」の買収となる。

同社は2008年に設立され、ランニングアプリ「ランキーパー」を運営している。スマートフォンのGPS機能による走行距離や速さの通知、運動記録の管理・分析ができるアプリで、全世界に3300万人の登録会員を抱えている。

ランキーパーは、初心者や若年層、女性といったユーザーを多く抱える。アシックスはこうした比較的販売シェアが低い層に対して、アプリを通じたプロモーションを行うことで、販売を拡大する狙いがある。さらに、IoTを含むデジタル戦略を担う人材の獲得も期待できる。

現在、世界の大手スポーツアパレルメーカーは、アプリ戦略に躍起になっている。世界首位の米ナイキは「ナイキプラス」の普及に注力してきた。2015年に入ると買収が加速する。米アンダーアーマーはフィットネスアプリ2社を買収、独アディダスも2015年8月にオーストリアのアプリ企業「ランタスティック」を約300億円で買収している。

ランニングブームを追い風に、海外で売上高を急拡大させてきたアシックス(撮影:今井康一)

アシックスも2012年から「マイアシックス」という自前のランニングアプリを展開していたが、思うように販売足数や加入人数を増やせなかった。

スポーツライターの南井正弘氏は「ランニングアプリは先行者利益が享受できる世界。ランナーはすでに走行距離を各アプリで貯めているので、後発組に乗り換えようとは思わないのだろう」と分析する。

フィットネスキーパーは最後に残った独立系大手だった。米ボストンに本社があり、ランニングの入門者向けに強い。中~上級者向けに強みを持つアシックスにとっては、顧客層拡大を図るのにうってつけの案件だった。

会見で尾山社長は「現在は、ナイキ(売上高4兆円弱)、アディダス(同約2兆円)に次いで、世界5位くらいかと思っている。まず米国でNo.1になり、目の前の2つ(ニューバランス、アンダーアーマー)をやっつけたい」と語った。

ライバルのアンダーアーマーは、最後発ながら高いブランド力を武器に、年率20%近い急激な成長を遂げている。最大手ナイキの売上高は一ケタ違う。買収をテコに、米国で存在感を示せるだろうか。アシックスの成長戦略が問われている。

常盤 有未 東洋経済 記者

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ときわ ゆうみ / Yuumi Tokiwa

これまでに自動車タイヤ・部品、トラック、輸入車、楽器、スポーツ・アウトドア、コンビニ、外食、通販、美容家電業界を担当。

現在は『週刊東洋経済』編集部で特集の企画・編集を担当するとともに教育業界などを取材。週刊東洋経済臨時増刊『本当に強い大学』編集長。趣味はサッカー、ラーメン研究。休日はダンスフィットネス、フットサルにいそしむ。

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