バブル崩壊以降、定着した厳選採用は、「採用計画数に達しなくても、学生の質を問う能力主義・実力主義を優先する採用」ということになるが、グラフ4を見ると、昨年と比較して優秀な学生が減っていると答えた企業は、増えていると答えた企業が2倍以上存在していることがわかる。「採用目線」は学生の質に大きな問題意識を持っているのが現実だ。にも係らず、学生の「就職目線」は足元の景気不安という外的要因を不安の材料にあげている。学生にとっては厳しい結論だが、問題の所在は学生自身にあり、景気のせいにするのは間違っていると言えるだろう。
では、企業が学生の質を評価する最大の基準は何なのか。この答えは数々の調査結果からも「コミュニケーション能力」であることは明らかだ。「コミュニケーション能力」は「学生目線」では「人と話すのが好き」「どんな人とでも仲良くなれる」などと捉えられがちであるが、「採用目線」で定義する「コミュニケーション能力」とは「相手の発する質問の要点を理解し、的確な回答を返すこと」にほかならない。
その理由は、学生側からの「就職目線」では「評価が曖昧では?」「鍛えようがない」と考えてしまいがちな「コミュニケーション能力」こそ、「採用目線」では「面接の場で唯一再現可能な評価方法」だからである。
他の選考基準である「達成志向」「適応力」「顧客志向」などは面接の場で再現するわけにはいかず、採用担当者は質問や回答を通してしかその能力レベルを推測するしかない。しかし、「コミュニケーション能力」については、まさに面接の場がコミュニケーションの場であり、能力そのものを面接で見ることができるからである。
そのような面接の場で学生が陥りやすいのが、「自己PRのスイッチが入ってしまう」ことだ。「就職目線」では最も重視される「自己PR」だけに学生たちの準備は入念である。採用担当者の質問に「今しかない!」とセルフジャッジをして、よどみない見事な自己PRを披露する。「採用目線」を持つ担当者にしてみれば、「会話の流れを考えずに、聞いていないことを次から次へと…」という気持ちになることは想像に難くない。そして、「この人はコミュニケーション能力が低い」という評価を下すというわけだ。
ここまで「採用目線」から見た「学生の質」を中心に話を展開してきたが、本稿の締めくくりとして、来年、2010年度入社に就職活動に取り組む皆さんに「採用目線」からのアドバイスを送りたいと思う。それは来年就職活動をする皆さんを見る「採用目線」は、現在就職活動をしている先輩たちよりも多少厳しいものになる可能性があるということだ。
その理由は皆さんが「ゆとり教育の第一世代」であることにある。つまり、学生の相対的な質の低下を懸念する企業にとって、「ゆとり教育」は2009年度にはなかった新たな懸念材料になりうるということなのだ。
しかし、ここで日本の教育行政を嘆き、いたずらに落ち込む必要はない。何故なら、皆さんは企業側のそういった「採用目線」を逆に利用し、「コミュニケーション能力」を今から鍛えあげ、面接に臨めばいいからである。
OB・OGをはじめとする社会人を相手に「コミュニケーション能力」を鍛える時間はたっぷりとある。孫子の兵法にあるとおり「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」。ピンチをチャンスに変える気概を持って、周到な準備を心がけてほしい。
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これから面接本番に向かう学生の皆さんへ
<ワンポイントアドバイス>
これを読んでいる学生の中には、今まさに面接本番に向かおうとしている方も多いだろう。
もし、読者のなかに、「面接であれだけ完璧な自己PRができたのに落ちてしまったが、その理由がいまだにわからない」という方がいらっしゃれば、次の面接の機会では本稿で解説した「採用目線」を意識してほしい。
具体的にアドバイスをすると「たとえ準備していた自己PRを話す機会がなくても、採用担当者の質問や問いかけに対して簡潔に、そして的確に答える」ことだ。そして、それができれば「それそのものがコミュニケーションであり、相手に自分の能力をアピールする」ことに繋がる。
周到に準備し、鏡の前で練習を積み重ねた自己PRができなかったからといって、何も肩を落とす必要はない。企業は自己PRの練度を見たいのではなく、皆さんのコミュニケーション能力を見たいのだから。
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