世界の自動車業界の見通しはネガティブ《ムーディーズの業界分析》
シニア・バイスプレジデント 八巻 純一
2008年、世界の自動車業界は信用収縮、景気減速、それに続く自動車需要の急減によって打撃を受けた。影響を免れたOEMメーカーは実質的にはない。2009年に入っても、一定の課題と不確実性は残り、その構図はさらに複雑化している。ムーディーズは、2009年も引き続き世界で二ケタ台の台数減少を予測しており、2010年も一定の回復がみられる見通しは限定的である。営業利益およびキャッシュフローの創出は中期的に非常に弱い状況が続くとみられる。
信用市場の混乱は、深刻な景気後退期における通常の循環的な自動車販売の減少をさらに増幅させた。また、前回の下降局面とは異なり、新興市場国への多角化も、西欧、米国、日本での急激な減少を相殺できていない。
自動車業界は既に過剰設備となっており、それが収益性を圧迫している。販売台数に大きな回復の兆しが見られない中、各社は高水準の在庫を削減し、キャッシュを確保することに苦戦している。下降局面の深さと期間が不透明なことが、OEMメーカーの今後の信用格付けを左右する重要な要因となり、消費者信頼感の欠如も不確実性を高める要因となっている。この点では、フリーキャッシュフローを保持し、流動性を確保することは、向こう1年から1年半において、世界のどの自動車メーカーにとっても主要な課題であり、ムーディーズが注視する重要な指標の一つとなるだろう。
政府は販売を向上させるための取り組みに着手し、欧州やアジアではいわゆる自動車販売促進策を導入しており、米国議会は自動車買い替え促進策を議論している。これらのプログラムは短期的には効果が期待されるが、それによって追加的な需要が創出されるわけではなく、需要が前倒しされたに過ぎない地域もあるとムーディーズはみている。その効果もさまざまで、小型車やハイブリッドに代表される低燃費車が最も大きな恩恵を受けている。
与信は引き続き制約されているため、消費者の新車購入のための資金調達も依然として限定的である。デトロイトを拠点とするメーカーのディーラーにとって、金融子会社が従来の資金調達源にアクセスできる機会が減少しているため、資金調達はコストがかかり、条件も厳しい。業界が現在の苦境から復活する力は、新車販売に関する資金調達にかかっていると言っても過言ではなく、自動車メーカーの金融子会社の状況が重要となっている。
中古車価格および中古車の残存価格(特にピックアップトラックおよびSUV)の低下も、OEMメーカーの収益性への脅威となっている。これは、独BMW、独ダイムラー、および米国のファイナンス会社に見られるような、リースポートフォリオの大幅な償却につながっている。
自動車部品会社の財務の健全性も、自動車需要の急激な低下によって打撃を受けており、その存続も、業界全体の回復見通しの重要な要素である。
米クライスラーおよび米GMの米国破産法第11条による保護を求める決定の影響は、現時点では不透明だが、出荷の減少、小売価格の下落、自動車部品会社側でのさらなる破綻などの事業リスクをもたらすだろう。オバマ政権が考えているように、法廷での手続きが短縮化され、「外科的な」ものとなるかは疑わしい。クライスラーおよびGMの米国破産法第11条適用申請は、長く待ち望まれていた再編を促すものであるという意味において、業界の現在の構造および競争環境に大きな影響を与える可能性がありそうだ。
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