最高益のトヨタに"下振れ懸念"が潜んでいる 販売台数は1000万台到達後に足踏み

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通期予想も市場の高い期待に応えられていない。決算発表前日、2月4日時点の2016年3月期のアナリストコンセンサスは、売上高28兆4149億円、営業利益3兆0450億円、純益2兆4024億円で、今回の会社予想はそれを下回ったままだ。

もちろん、トヨタの予想は保守的で知られている。9カ月累計の営業利益、純益は、通期の会社予想に対し80%を越える進捗率。加えて、第4四半期の想定為替レートは円ドルが115円、円ユーロが125円。足元はそれぞれ117円、130円なので厳し目の想定といえる。

ダイハツ工業の完全子会社にも踏み切るトヨタ(撮影:尾形文繁)

それでも、通期予想はむしろ下振れする可能性を否定しきれない。グループ会社の愛知製鋼の工場で起きた、爆発事故によるトヨタの国内生産の停止影響をまだ織り込んでいないからだ。

愛知製鋼の特殊鋼の供給不足により、トヨタは国内全ての完成車工場を2月8日~13日の1週間停止する。15日以降は通常の稼働に戻せる予定だが、年度内(2015年3月末)の挽回生産は難しく、販売機会喪失は避けられそうにない。さらにトヨタ側からすると、操業停止による固定費負担、代替生産のコストアップ、取引先への支援などが見込まれる。これらを勘案すれば、トヨタの通期業績は、会社予想を下回るか、場合によっては減益となってもおかしくない。

2016年の販売台数は減少の見込み

来期はどうか。トヨタが2015年12月に発表済みの2016年(暦年ベース)の販売計画は、1011.4万台と2015年から3.7万台減を見込む。北米の好調は続くが、低迷する東南アジアがもう一段減少すると予想している。

ただ2016年度(2016年4月~2017年3月)ベースで考えれば、生産停止からの挽回生産と、2017年4月に消費増税が実施される場合の駆け込み需要というプラス材料がある。どちらも期ズレ要因ではあるものの、2016年度の販売台数を押し上げる効果があるだろう。世界的な経済クラッシュなどがなければ、年度ベースの販売台数は若干増になると考えられる。

収益面では、為替影響は除外したうえで、例年水準の原価改善により労務費、研究開発費、減価償却費の増加をかろうじて吸収するシナリオがリーズナブルだ。

トヨタの業績が"踊り場"にあることは間違いない。そうした苦しい時期でも、「どうにもコントロールできなくて費用増になっているのではなく、この先の競争力をつけるために一生懸命仕込みをしている。一概に費用増加がすべて悪化とは考えていない」という大竹哲也常務役員の言葉が示すように、将来への投資は抑えていない。にもかかわらず営業利益率は10.8%(2015年4~12月)と、世界の大手自動車メーカーの中ではトップの高収益体質を誇る。

トヨタの利益は、日本企業としてはすでに未曾有の高水準に達している。その増減はもちろん重要だが、それと同時に、将来への投資をいかに実らせることができるかにも注視するべきだろう。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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