NHKは本当に変わったか--実力か、民放各社の衰退か?(下)
(上より続く)
福地会長はメーカー出身の経営者らしく「現場で、現物を、現実に」という三現主義を重視する。74歳とは思えないフットワークで、全国54放送局のうち、すでに40以上を訪問。自ら現場に降りて様子を観察。意見交換や自分の目で問題点を確認し、修正していく。
アサヒ社長時代、「人に時を告げるのは無理だが、みんなと一緒に時計を作っていくのは得意かもしれない」と語っているように、派手なトップダウンでなく、泥臭く現場を回って、現場の心を束ねていくのが福地流なのだ。
効果がすぐに見えないため、「NHKのような伏魔殿の改革には生ぬるい」「スピードが遅い」という批判もある。が、NHK内部からは「現場をよく見ているし、客観的に判断した上で、経営委員会などに言うべきことを言っている。外から来たわりによくやっている」(NHK幹部)と好感的な声も多い。
何より「今の会長になって、自分の作りたいものを作れるようになった。海老沢体制の時のような余計な圧力を感じなくなった」(NHK関係者)と、制作現場のモチベーションも高まっているようだ。
そういった成果が垣間見えるのが、民放とのコラボレーションである。
今年3月、NHKとフジテレビジョンは、若者をテーマにした「イチか? バチか? プロジェクト」を共同で立ち上げ、相互の番組を連動させる企画を行った。昨年末の紅白歌合戦でも、フジのアナウンサーや旗を持ったタレント応援団が乱入し、高視聴率をたたき出したことから、「視聴率1位、2位の強者連合結成か」と大きな話題を呼んだ。
実は、これはNHKとフジの現場同士がやりとりをして企画したものだ。福地会長は「(コラボの)話を聞いていなかった」という。だが、「結果として良い番組ができるならいい」と現場の判断を尊重した。今後も「フジさんだけでなく、ほかの局ともやったらいい」と容認する。
NHKで最も縦割り組織だった報道局にも、大きな変化が現れている。4月に政治部、経済部など各部から集まった記者やディレクターらが一つのチームを結成。一体となって番組制作に取り組む「あすの日本」プロジェクトが始動した。それだけではない。年金、健康、街のトレンドといった視聴者からのニーズの高いニュースをカバーするため、「生活情報部」という部署を新設、局初の女性部長も誕生している。