NECの携帯電話に異変! ドロ沼からの脱出劇

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NECの携帯電話に異変! ドロ沼からの脱出劇

かつて国内で盤石の首位を誇ったNECの携帯電話事業。シャープに大きく水をあけられ、現場のモチベーションは見る影もなし--。そんな閉塞感に、一人の男が風を吹き込んだ。緩やかな好転軌道入りはかなうのか。

お客の列は1階の販売カウンターから、階段伝いに2階フロアにまであふれていた。2007年11月下旬、東京都内の家電量販店。NECのNTTドコモ向け新機種、N905iの発売日である。NEC機種で初めてワンセグ視聴機能を搭載する。光沢アルミ仕上げの高級感に、「ダサかったNEC端末と思えない」と女性客が手を伸ばした。

ドコモが代理店に販売インセンティブとして支払う奨励金制度を廃止して迎える初商戦。端末価格の上昇で購買意欲の減退が懸念された中、同時期にパナソニックモバイルコミュニケーションズも主力機種を発売した相乗効果で、「反応は想像以上。両メーカーの機種とも品切れが続出した」(ドコモ系大手販社)。

続く12月。デザイン家電ブランドamadana(アマダナ)とNECのコラボレーション機種(限定版5000台)は、予約開始からわずか2日間でスピード完売した。

堕ちたケータイ王者 再建に“外科医”招聘

「春夏の2機種から、秋冬はやっと4機種出せた。この進歩は大きい」。小島立・モバイルターミナル副事業本部長はしみじみ語った。06年度まで3期連続で巨額赤字にあえいだNECの携帯電話事業。07年度にようやく黒字化のメドが立ち、緩やかな反転期に入ろうとしている。

旧電電公社ファミリーの代表格として、携帯事業を切り開いてきたNECは、05年初まで国内首位に君臨する“ケータイ王者”だった。だが海外展開が大誤算。第3世代通信(3G)の到来を見込み、中国、欧州に参入するも時期尚早。特に中国では、8000万台市場に、各社合計1億台が投入された(中国信息産業部、05年調査)。NECは現地で200万台を販売した04年度末を境に、積み上がる在庫と現地通信規格対応の開発費膨張に苦しんだ。

パナソニックや東芝など日系メーカーが続々中国から撤退する中、NECは3Gの到来を信じて粘る。「でも来なかった。市場展望が完全に狂った」。当時中国事業の幹部だった山崎耕司・モバイルターミナル事業主幹は苦々しく振り返る。結局、中国からは06年度上期に撤退するが、時すでに遅し。撤退費用に国内の開発費も重なり、半導体と並ぶ双子の赤字事業に転落する。 

一方、国内ではシャープが猛追。03年4~6月期25%超あったNECのシェアは、06年同期には半減した(調査会社ガートナー調べ)。肥大した開発費を絞りつつ、リナックス新OSへの移行に踏み切るも、開発現場の業務を複雑にするという新たな問題を抱え込むことに。気がつけば現場は疲弊しきっていた。

それは06年2月、全社員を対象にした定期意識調査でも鮮明に表れた。チーム内で事業戦略を共有できていない点、コミュニケーションが乏しいという点で、全社中最低の結果だった。「商品力が足りないから負ける」「いったい、どこで誰が企画しているのか」「アイデアをどこにアピールすべきかわからない」。現場のいらだちが噴き出した。何も言わず他社へ去る者もいた。

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