国も電力会社も、「廃炉」への対応が甘すぎる 長崎大学・核兵器廃絶研究センター長に聞く
廃炉に関していちばん大きな課題は、原発の解体で出る放射性廃棄物の処分場が存在しないことだろう。制御棒など比較的放射能レベルが高い部分は、国の規制基準が決まっていないため、現時点では処分場の設計すらできない。
使用済み核燃料の再処理工場などが建設されている青森県六ケ所村は、物理的には受け入れ可能だ。しかし、発電過程で出た廃棄物しか受け入れないことになっており、どこか別の場所を探す必要がある。
専門家が「当たり前のこと」を発言できない状況に
廃炉の在り方については、福島の事故以前、原子力委員会の委員が国の関係機関などを集め、非公式の勉強会を開いていた。処分場が必要だという認識はあったが、当時の状況下では国も電力会社も慌てることはないと思っており、本気ではなかった。
正直言って、高レベル放射性廃棄物の処分場も決まっていない中で、「これ(廃炉後の廃棄物の処分場)も決まっていないのか」という批判を避けたかったのだろう。「寝た子を起こすな」という思いがあり、公式の場であまりこの問題が取り上げられることはなかった。
そんな中で福島の事故が起きた。事故により汚染されたがれきや除染後の放射性廃棄物は、廃炉で出る廃棄物と比べても桁違いに量が多く、課題も複雑だ。政治的にも、こちらの優先順位が圧倒的に高くなってしまい、廃炉後の廃棄物はさらに後回しになってしまった。
今の日本の大きな問題は、放射線リスクに対する信頼がなくなってしまっていること。専門家は、少しでも政府寄りの発言をすれば「御用学者」、慎重意見なら「脱原発派」と色を付けられる二極化が進んでしまった。専門的な見方で、当たり前のことを当たり前に発言できない状況ができてしまっている。残念ながら、規制当局ですら信頼されていないのが実情だろう。