「日本は努力次第で上に行ける平等社会だ」 学生支援機構トップが奨学金制度批判に苦言

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――確かに、ネガティブな報道が大変多い印象です。

「在学中に受けた貸与金を返すために、ソープランドで働いています」とかね。本当にイレギュラーなものだけが記事になる。奨学金の返還者の例として、こういった特殊な事例だけをあげてほしくない。

私だって、今の奨学金制度が完璧だなんてまったく思っていません。建設的な批判はどんどんしてほしい。ただ、センセーショナルな部分だけをあおる批判は、私は犯罪的行為だとすら思う。「学生支援機構の奨学金を借りたら地獄」と言わんばかりの報道が当たり前のように伝えられるようになった時に、何が起きるかよく考えてみてください。

本来高等教育を受けるべき子供に、悪影響を与える

遠藤勝裕(えんどう かつひろ)/日本学生支援機構理事長。1945年6月生まれ。1968年、早稲田大学第一政治経済学部卒業後、日本銀行へ入行。1995年、同行神戸支店長在任時に阪神淡路大震災に遭遇し、金融パニック防止、復興支援に尽力。同行電算局長を経て、2000年から日本証券代行社長、2010年からときわ総合サービス社長を歴任。2011年7月から現職。経済同友会では教育問題委員会副委員長を務め、2010年に奨学金に関する提言「経済格差を教育格差に繋げないために」のとりまとめに関わる。2014年から東京都教育委員会委員も務める(撮影:尾形文繁)

本当に優秀だけれども、経済的に高等教育を受ける環境にない子供たちの可能性を摘むことになるんじゃないか。「学生支援機構の奨学金というものがあるなら、大学に行こう」と考えたはずの子供たちが、進学をあきらめてしまう。これは、絶対にあってはならないことなんです。

ああいうあおり方をして、いったい何の利益があるのか……。発言している人の中には、ひょっとしたら売名行為なんじゃないかと思うことすらある。

――学生に金を貸し付けて儲けようとしているのだ、という論調も少なくありません。

そうやって極端なことを言う人が、世の中ではまかり通ってるわけですよ。しょっちゅうマスコミに登場してね。本当に驚いたんだけど、極端な大学の先生なんかは、「日本学生支援機構の奨学金を受けるくらいなら、まだ消費者ローンを組んだほうがましだ」とまで発言している。僕なんか70歳過ぎてもすぐ頭に血が上るから、「この大学なんか、今すぐ奨学金の対象から外してしまえ」と思いますよ。

で、その先生が所属する大学を見たら、日本学生支援機構から5000人くらいが奨学金の貸与を受けている。その額は数十億円にものぼりますよ。奨学金は有利子と言ったって金利は何%ですか。奨学金と同じような条件で消費者ローンが貸してくれるんですか。そんなわけないでしょう。そこまで言うなら、学生に消費者ローンを組ませればいいじゃないですか。

――返済できないことへのペナルティとしての、延滞金に対する批判も強い。

平成27(2015)年度も、30億〜40億円の延滞金がありましたが、これは国からの運営費交付金(約140億円)と合わせて事務経費に充てられている。もし延滞金をナシにしてしまえば、そのぶん、運営費交付金を増やさなければならない。誰かが事務経費を負担をしなければならないのです。

家庭が貧しいといった理由で、高等教育機関での勉強をあきらめるということは、絶対にあってはならないという思いは、当然、つねに持っています。

しかし、独立行政法人は、国民の皆さんが汗水垂らして働いた、公的な税金を使って運営している。その中で、事業をこなしていく必要があるんです。きちんと払っている人が相対的に損をするようなことにならないようにするためにも延滞金は必要です。

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