京急の眠らない夜…元日・終夜運転の舞台裏 「中の人」が見た初詣輸送ドキュメント

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寒空の中、電車を待つ駅係員。安全確保に気は抜けない

●川崎大師駅 0:30

新年が明けて、さっそく初詣でへと向かうお客様の波が押し寄せてくる。みな明るい笑顔だ。

京急電鉄の歴史は、ここ大師線から始まった。川崎から川崎大師への参詣輸送を行う約2キロの路面電車からスタートした大師線が開業したのは、117年前の1899(明治32)年。以来、大師線は川崎大師平間寺とともに歩んできた。

ホームでは、駅係員が6分間隔で終夜運転する電車を見送る。川崎大師駅でホーム立哨を行うのは、このシーズンだけだ。4両編成の電車から降りたお客様が改札へと向かうが、降車が終わったと思えばまた次の電車が入ってくる。こんな様子が、大みそかの夜から三が日の間続く。

この光景は昔から変わらないが、以前は下りホームに改札口がなく、上りホーム側にある改札口へ地下道だけでは通り切れないため、この時期は臨時の構内踏切を設けて対応していた。列車接近のベルとブザーを聞きながらお客様をご案内するのは緊張する仕事で、混み合う踏切をなるべく安全に案内できるよう、川崎大師駅で上下列車のタイミングを合わせるような苦労もあったという。職員だけが知る正月の風物詩でもあった。

助っ人新人、大活躍

正月の風物詩といえば「助っ人」も挙げられるかもしれない。このシーズンは、いつもの川崎大師駅の係員だけでは人手が足りず、ほかの駅から助勤者が駆けつける。

この日、年越しの時間に改札に立っていたのは1年目の新人職員。普段は、羽田空港国内線ターミナル駅に勤務している。参道はどっち、コンビニはありますか、トイレは――。お客様の問いかけにてきぱきと案内をする。「お客様に接してのご案内が好きで、普段とは違う駅での仕事も新鮮です」。新人にとっても、年初に快い経験だ。

その昔の改札口は、切符の集札や乗り越し精算で、てんやわんやの時代もあった。七輪を焚いて、仮設の改札で何人もの駅係員がその対応に当たったものだが、ICカード化が進み、改札口の姿も大きく変わった。係員がお客様の案内に徹することができるのも、こうした変化が関係しているだろう。

川崎大師駅前から続く参道は人があふれ、年越しの夜は活気と笑顔にあふれている。その参道から少し外れた所にある東門前駅。川崎大師平間寺の東門に近いが、この深夜に乗り降りするお客様は僅少だ。そんな駅であっても、電車は丁寧に止まっていく。初詣でで活気あふれる駅のすぐ隣で、どんな時も手を抜くことのできない鉄道の仕事は粛々と行われている。

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