学生運動が起点、いま台湾は激変前夜にある 「第3勢力」が与える影響力は大きい

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民進党は比例代表候補の選出において、これまでの派閥闘争と利益分配方式から脱却し、環境や女性、労働、原住民など各界人士を迎え入れ、専門性の高い候補者の擁立に成功した。そのため、一般からも高い評価を受け、支持率も高まった。これと比較すると、国民党の比例代表候補は非常に見劣りする。立法院選挙でも国民党は厳しい状況にある。

民進党は林昶佐、黄国昌、洪慈庸の3人が立候補した選挙区では自党の候補者を立てず、彼らに協力することを決定した。だが、彼ら候補者の対抗馬が4選以上のベテラン議員であり、年齢が高い層を中心とする支持基盤が強固だ。だが、時代力量の出現で情勢はともに拮抗しており、時代力量や民進党は若い層に投票に行くよう訴えている。

時代力量の候補者の多くはカリスマ性を持っており、そのフットワークの良さでアイドルのような存在になっている。しかし、民進党との距離が近いことから「民進党と変わらない」という批判も受けている。

そのため民進党との差をアピールすることにも腐心している。たとえば台湾北部・新竹市の選挙区。ここで時代力量は弁護士出身の邱顕智氏を擁立、民進党で7選のベテラン議員である柯建銘氏と争うことになった。

時代力量側は「柯建銘氏は古い政治家」と批判する一方、柯氏を支持する側からは「民進党は豊富な経験や調整能力、交渉力のある人物が必要だ」と訴え、真向から対立している。反国民党陣営が分裂状態になっているということだ。

他にも、第3勢力の政党としては緑党社会民主党連盟の存在感が大きい。同党の立候補者は教授や研究者など学識経験者やNGOなどでの活動家が多く、それぞれが労働・環境問題に長年取り組んできた経験を持つ。また、候補者のうち5人が、同性愛者であることを公表している。

緑党社会民主党連盟は環境保護や社会福祉といった政策を重視し、選挙後には内政面で民進党の活動を監督する役割を行う予定だ。候補者たちの知名度は時代力量ほど高くはないが、社会運動に長く献身してきた人たちが多く、支持を表明する人は少なくない。またイデオロギー色が強くないため、若い世代を中心に無視できない支持が集まっている。

第3勢力の議席獲得が確実視

時代力量と緑党社会民主党連盟は、今回の選挙で議席を獲得する可能性が高い。時代力量は候補者のカリスマ性と人気で5~7議席の獲得は可能とみられている。すでに「(2大政党中心から)第3政党の地位に上がる」「民進党の票を分散させる」という指摘がある。緑党社会民主党連盟は比例代表で最大2議席というのが下馬評。既存政党である親民党は4~5議席、台湾団結聯盟も2議席程度の議席獲得が予想される。

中国の動きもやはり、台湾では重視されている。たとえば、香港では中国では禁書とされている書籍を販売している書店経営者が突然失踪した事件が起きている。また、韓国のアイドルグループTWICEの台湾人メンバー・周子瑜さんが「台湾独立支持」を表明したところ、中国で予定されていたスケジュールがすべてキャンセルされる事態となった。

こうした事件によって、若い層を中心に中国に対する警戒心が高まり、国民党の親中的な政策に対する疑念が深まっている。インターネット上でも、若者たちが「本当の反中の声を聞くべきだ」と主張し、「政党票は台湾団結聯盟へ」と訴える声も出ている。

反・国民党がすでに台湾国民の主流となった今、選挙区候補への票と比例政党票をどこに投じればいいのか・・・台湾の有権者は投票日ぎりぎりまで大いに悩むことになりそうだ。

楊虔豪 台湾人ジャーナリスト
福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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