米専門家が説く「暴走北朝鮮」への対抗方法 金体制を揺さぶる効果的な方法がある

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一つは、金正恩が体制内部で問題を抱えている可能性。実際に表面化しているかどうかは別として、彼自身が自分は力があって進歩的なリーダーであることを示す必要があると考えていた。水爆を開発したという主張が意味することは、彼自身が科学分野で大きな功績を成し遂げたということを示す目的があったのではないか。

もう一つは、中国が金正恩を招待する意思のないことを示したことに怒り、中国にその「お返し」をしたという可能性。どちらかかもしれないし、両方である可能性も高い。

韓国は、北朝鮮が嫌がることをやればいい

──従来型原爆と比べて、水素爆弾の持つ戦略的な価値は何か。

抑止効果だろう。もし北朝鮮が今と同じサイズの核兵器をソウルで爆破させたなら、ソウル人口の3%を殺傷することができるだろう。もし本当に水素爆弾、例えば5メガトン級の爆弾を保有しているのなら、それだけでソウルの大半を破壊できるほどの威力がある。しかし、それで「十分」なのだろうか。韓国はその代償が大きいとしても、北との問題を抜本的に解決するために戦力を強化することもできるからだ。

もっとも、北朝鮮がソウルや釜山の街を一瞬で破壊できるような水素爆弾を持とうとしていることに対しては、米国同様、韓国もかなり用心しなくてはならない。中国もまた然りだ。

もう一つ、今回の件は北朝鮮にとって国際的な力関係と権威の問題、そして自国内での力関係と権威の問題にもかかわる。こうしたすべての要素が、軍事力を高める決定に結びついたのではないか。

──米国や日本、韓国は今回の核実験に対してどのように対応すべきか。

これまでも可能な限りの経済制裁を課してきた。このほかにも、北朝鮮を国際的な金融制度から締め出す方法があるが、見落としてはならないのが、今回の実験の目的は経済と関係ないということだ。つまり、外国が北朝鮮と交易しないように仕向けるのが目的ではない。となれば、考えられるのは国内の政治的な理由だ。

もし、国内政治に問題があるのであれば、米国や日本、韓国はそこを「突く」のがいいかもしれない。北朝鮮は昨夏韓国が南北の軍事境界線近くで行う「宣伝放送」を激しく嫌がっていたが、韓国はこのたびこれを再開した。

このほかにも、北朝鮮内の政治情勢に影響を与えられる方法はある。たとえば北朝鮮の核施設関係者に対して、「今回あなた方がしたことを考えてほしい」というビラをまくという方法だ。これは北朝鮮の核開発プログラムから関係者を離脱させるのが目的だ。ビラではこうしたインテリジェンスに対し、放射能汚染で死なないようにするためには韓国の大学や施設で仕事をするように勧誘すればいい。

1人でも離脱者が出れば、金正恩の面目は潰れる。彼はそのような事態を回避するためにあらゆる手段を尽くさなくてはならないだろう。それこそ彼が支払う代償であり、彼が負わなくてはならないリスクだ。彼はこれまでのように科学者をイランやその他の国へ派遣することはできなくなる。そのようなことをすれば派遣された者はそのまま亡命してしまうだろうから。

北朝鮮の軍関係者は十分な食料を与えられず飢えに苦しんでいる。一方、金正恩は50億ドルもの資金を国外のファミリー銀行に保有しているようだ。軍隊を養うために、手持ち資金から年数百万ドルを支払わないのはなぜなのかを攻めればいい。私たちはこうした政治的な対処法を進化させていく必要がある。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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