「世界の争い」が一向になくならない根本理由 地政学の視点なくして、本質は読み解けない

拡大
縮小

大きな要素となるのが、「地理的条件」である。なぜなら、国家の野心とは「領土にまつわる野心」にほかならず、「より広い土地、よりよい土地が欲しい」という一点に集約からだ。言い換えれば、国家は「より多くの富」を求めて、領土拡大を渇望してきた。

日本がユーラシア大陸にきわめて近い位置に浮かぶ島国でなければ、日本の歴史はまったく違ったものになっていたに違いない。あるいは、朝鮮半島がユーラシア大陸にちょこんとくっついていることが、今も昔も「二股」「コウモリ」などと呼ばれざるをえない韓国の外交姿勢を作ってきた。

ほかにもある。

・なぜ、今の中国がとりわけ太平洋への野心をあらわにしているのか
・なぜ、ロシアはクリミア半島にこだわるのか
・なぜ、アメリカは「世界の警察官」たりえたのか
・なぜ、ヨーロッパはEUとしてまとまることになったのか

 

これらもすべて、地政学的な視点で見ると理解できる。さらに、その視点をつねに持っていると、世界が今後どう動いていくか、わが国はどう立ち回ったらいいのかまで、地に足のついた思考力で考えることができるのである。

今も昔も、土地をめぐって国同士が「押し合って」いる

たとえ実弾が行き交っていなくても、この世界には、つねに国家同士の地政学的な「押し合い」が起こっている。たとえば、かつてソ連が崩壊してロシアとなった際、ソ連の緩衝国として機能していた東欧諸国は、一気にEU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)に加盟した。

『世界のニュースがわかる! 図解地政学入門』(高橋洋一著、あさ出版)。上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

これも、ソ連が「引いた」ことで、西側諸国と東側諸国を分けていた「鉄のカーテン」が取り払われ、そこへ西側諸国の影響が流れ込んだ結果、つまりかつてのソ連圏に、西欧がぐっと押し込んだといえる。

最近の例を挙げれば、アメリカと中国の関係などはまさに「押し合い」そのものだ。長年、アメリカは「世界の警察官」を自認し、つねに世界の安全保障の軸となってきた。ところが2013年9月10日、オバマ大統領は、当時最大の懸案の一つだったシリア問題に関するテレビ演説で、「アメリカは世界の警察官ではない」と述べた。要するに、「今まで、お金も人も相当つぎ込んで世界の安全保障の中心に立ってきたが、これからは少し手を引く」と宣言したということだ。

アメリカが引いた。これを好機と見ているのは、どの国か。ソ連時代にアメリカとしのぎを削ったロシアが思い浮かぶかもしれないが、さらに露骨な野心を見せているのが、中国だ。

地理的条件が国家の動向を左右する、それが地政学の前提だが、地理といっても、より厳密に、とりわけ近代以降でいえば、重要なのは「陸」よりも「海」だ。海を制する海洋国家が、覇権を握るといっていいだろう。

次ページ海への進出に熱心な中国
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT