総合商社には適切なリスク管理が必要《ムーディーズの業界分析》

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金融機関グループ  VP−シニア・アナリスト 山本哲也


 日本の総合商社業界に対する見通しは安定的である。この見通しは、今後12~18カ月間のこの業界の基本的な信用状況に対するムーディーズの予想である。

ムーディーズの格付け対象会社
会社名 長期格付け/見通し 最近の格付け変更とその年月
三菱商事 A1/安定的 2008年5月にA2から格上げ
三井物産 A2/安定的 2005年4月にA3から格上げ
住友商事 A2/安定的 2006年6月にA3から格上げ
伊藤忠商事 Baa1/安定的 2006年8月にBaa3から格上げ
丸紅 Baa2/安定的 2007年7月にBaa3から格上げ
双日 Baa3/安定的 2008年12月に格付け
注:2009年3月現在

近時の急速な資源価格の下落、ならびにデフレ懸念をも伴う世界的な景気減速に直面し、日本の総合商社各社の投資スタンスには差異が出てきている。事業環境が不確実な時期には、ムーディーズはリスクの増加を伴う継続的な利益成長よりも、安定的な利益及びキャッシュフローの創出をより一層重視することになる。それゆえ、現下の状況において、積極的な投資スタンスを維持することに対しては、当該商社の信用力を考える上では、ネガティブにとらえることになる。ムーディーズは各社が保守的なリスク・リターンに対する考え方に重点を置いて、持続するであろう困難な事業環境に対処していくことを期待している。実際、総合商社においても、最近では新規投資よりも財務の健全性やリスク管理の強化に重点を移している状況にある。


ムーディーズは、近時改善した各社の資本構成は、潜在的なリスクに対する十分な吸収力を持っていると考えている。2009年3月期第3四半期の総合商社の決算内容をみれば、最終利益を計上する一方で円高に伴う外貨換算調整勘定の減少や株価低迷に伴う未実現有価証券評価損益の減少等により株主資本が減少しているうえ、各社のレバレッジ水準の低下はピークを超えたと見られる。、事業サイクルを通じて現行水準の資本構成を保持することが、現行格付け水準を維持することにつながるであろう。


ムーディーズは、手許流動性や代替流動性、資金調達基盤に対する評価を背景として、格付け対象の日本の総合商社の流動性については過度の懸念を抱いていない。しかしながら、海外資本市場の機能不全、ならびに海外金融機関の資金供給能力の低下は、特に海外関連事業において、総合商社の資金調達に影響を及ぼし始めている。もしも資金調達面で困難な状況に直面した場合には、当該商社の格付けにネガティブな影響が生じるであろう。


ムーディーズは、各社のリスク管理への取り組みを、格付け上ポジティブな要因として織り込んでいるが、今次の景気下降局面において、事業サイクルを通じた安定的な利益額の創出という点を通じて、各社のこれまでのリスク管理への取り組みの実効性が試されると考えている。ムーディーズは引き続き、各社のリスク管理についてモニターしていく。


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