「スペイン風邪」の大流行とは異なること
須賀 千鶴(以下、須賀):現在のコロナウイルスのパンデミックについて、苅谷さんが感じていらっしゃることを教えてください。
苅谷 剛彦(以下、苅谷):今回のパンデミックの前にも、人類は100年前にいわゆる「スペイン風邪」の大流行を経験しています。ですが、今回と100年前のパンデミックが大きく異なるのは、情報のネットワークの発達度合いです。
100年前は、マスメディアやインターネットを含めて、情報のネットワークがそれほど発達していなかったので、各国が感染症に対してどのような対応を取っているのかを、世界中の人がつぶさに知ることができるような状況では決してありませんでした。
現在のように、感染者数や重症者数、亡くなった人の数など、世界中の状況を手に取るように把握でき、自分たちの国の状況とほかの国の状況を見比べて、グローバルに起きている影響を明確に知ることができるのは、人類の経験の中でも初めてのことだと思います。
さらに、今回のパンデミックは、個人の健康に関するリスクだけでなく、社会や経済など、さまざまな側面に影響が及んでいるので、多様な局面や層に関する知識や情報が瞬く間に共有されます。あらゆる情報がさまざまなレイヤーに影響し、それらが複雑に絡み合いながら、情報として爆発しており、個別の情報が入ってきたとしても、それを判断することが非常に難しい状況にあります。
感染症対策は科学的にもまだ正解が出ていない状況にありますし、ウイルスを原因に生じている経済的、社会的な出来事への関連も完全に解明することは不可能です。人々の不安が大きく高まっている中で、フェイクニュースのようなものが、あたかも真実のように広がってしまうことも、ある意味ではやむをえないことなのかもしれません。
情報の生産と消費がこれだけ自分たちの生活に関わる形で爆発的に起きている中で、人類が積み上げてきた知性がこれほどまでに試されている状況というのはいまだかつてなかったと思います。
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