あの人がうつ病から抜け出せない最大の理由 「復帰に対する焦り」とどう付き合うか

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焦る気持ちとどう付き合ったらいいか……(写真:Graphs / PIXTA)

うつ病に悩まされている人が後を絶たない。厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」によれば2014年時点で、うつ病を含む気分障害で医療機関を受診している患者数は111万人と3年前から約16%も増えている。世界保健機関(WHO)の調査から推計すると、日本のうつ病患者は360万人から600万人いるという説もある。

ルンドベック社(本社:コペンハーゲン)の「職場でのうつ病の影響調査」によると、うつ病による休職期間の平均は79日だ。ところが、実際は3年、5年経っても一向にうつ病から抜け出せない患者も多く存在する。

彼らがいつまでもうつ病から抜け出せない理由はどこにあるのだろうか?心理カウンセラーとして多くのうつ病患者と接してきた経験から、筆者は「復帰に対する過剰な焦り」があると分析している。

うつ病の治療に「焦り」は禁物だ。治療の際、患者は医師から回復や復帰を焦らないようにと指導される。家族についても焦りが増すような言葉は控えるよう指導される。ただ、これがかえって、うつ病を長期化させる原因にもなりうる。

「焦り」の禁止が逆効果になることも

埼玉県に住む30代主婦、Uさんはパート先の人間関係からうつ病と診断された。Uさん夫婦には子供がおらず、義理の両親と夫の実家に4人で同居してした。そのため自宅で療養生活を送るのにもいくぶんか遠慮があったという。

「早く治さなければ周囲に迷惑がかかってしまう……」。筆者と話をするたび、Uさんは口癖のようにそう言っていた。うつ病を早く克服するため患者会に参加するなど治療にも積極的だった。

しかし調子が良くなるたび無理をし、症状がぶり返すというサイクルがもう5年も続いていた。「そんなに焦って治そうとしなくていいから、ゆっくり休みなさい」。主婦業とパートの復帰を焦るUさんを見て、夫も義理の両親もそう諭したという。

一見、何の問題もない会話に聞こえるかもしれない。しかし当時、Uさんは筆者にこう語っていた。「本当は早く治ってもらいたいんだけど……と言っているように聞こえてしまうんです」

うつ病患者の心理は複雑だ。自身が抱える不安や心配によって、他人の声が歪んで聞こえることがある。Uさんは、早く復帰して欲しい気持ちを「家族ぐるみで隠しているのだ」と真剣に思い込んでいた。

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