あの人がうつ病から抜け出せない最大の理由

「復帰に対する焦り」とどう付き合うか

「それは勘違いだから焦る必要なんてない」。夫が何度そう言ってもUさんは耳を貸そうとしない。それどころかますます復帰を焦るようになった。そして見聞きした情報を元に、様々な民間療法をかじっては止めるという生活がさらに2年続いた。

「生きることを衝動的に諦めたくなった」とUさんは言う。Uさんは手持ちの睡眠薬をすべて飲み干し、救急車で病院に運ばれた。その事態をきっかけに、Uさんは短期入院することになった。それでも「早く家に戻らなければ……」と、焦りを止められなかったと話す。

一方でこんな事例もある。都内に住むTさん(当時34歳会社員女性)は、職場の荷重労働が引き金になってうつ病になった。

元々、主張するのが苦手で、きつい長時間残業もすべて受け入れていた。自分の体調を理由に仕事を休むなど言い出せない性格だ。もちろん病院に行って診断を受けるのにも抵抗があった。そのため最後は、夫が強引に病院へ連れて行き、うつ病と診断された。

それ以来、自宅で療養する生活が始まった。しかし、やはり「早く職場に戻らなければ……」という焦りが止まらない。医師から「焦ってはいけない」と言われるたび、「その言葉で余計に焦ってしまう」と深刻な表情で訴えていた。

うつ病の治療は投薬と休息が必須である。この休息とは心身両面の休息を指す。自宅で療養していれば体は休まるだろう。しかし、焦りがある限り、心は一向に休まらない。結果、Tさんは診断から8カ月経っても回復を見せなかった。休職を許された期限がどんどん迫り、Tさんはより焦りを募らせていた。

困り果てた夫から、筆者が相談を受けたのはこの頃である。私は「本人と周囲による焦りの禁止」が、症状を助長していると見立てた。まず夫にTさんの焦りを禁止せず、「焦ってしまう気持ちを許してあげるよう」指示を出した。

うつ病の治療過程では必ずと言っていいほど焦りが発生する。焦りというのは心理的な生理現象である。自分の意思でコントロールできる類のものではない。「汗をかくな!」と言われても止められないのと同じである。どんなに他人から言われようと「焦ってしまう」のだ。

休職期間を満喫してゆっくり休めるような人はうつ病にならない。回復に対する焦りは「通過儀礼」ぐらいに思ったほうがいい。「焦りが増す期間も回復に向かうステップの一つ」そう定義付けた方が心理的には遥かに有益である。

上記の説明に納得したTさんの夫は、彼女の焦りを咎めないよう注意した。「焦っても大丈夫だよ」と焦りを許すよう接し続けたのだ。次第に、Tさんが過剰な焦りを口にすることは減ったという。結果、相談を受けて3ヶ月後、Tさんは初めての減薬に至った。

うつ病を長期化させるパラドクスの正体

ご法度の焦りを、あえて許すというのは抵抗があるかもしれない。しかし、こういったパラドクスは心理の世界ではよく起きる。

このパラドクスを、専門用語で「偽解決(ぎかいけつ)」と言う。「解決のつもりで取った行動が、より問題を大きくしてしまう」こういった「悪循環」とも言える現象は、日常生活でもよく目にする。

「明日は早いから、もう眠らなければいけないのに……」。そう必死になればなるほど、目が冴えて余計に眠れなくなってしまう。こんな偽解決の代表例のような経験が、あなたにもないだろうか?

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